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その2
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その3
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その5
17章 終章 あとがき
426 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:41:29.66 ID:O1eAIe2e0
十三章
(´・_ゝ・`)「参ったなぁ……」
まだ開けていない缶コーヒーを片手に、デミタスは呟いた。
自販機に寄りかかりながら、飛行機雲を眺める。
(´・_ゝ・`)「閻魔……奈落……舌……」
あの泣きじゃくっていた被疑者を皮切りに、自首するものは増え、
ついには合計で三人の男が自首をしてきた。
429 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:42:36.20 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「別にいいんだけどさ。確かにあいつらが犯人じゃないとは考えにくいし」
しかしデミタスはどうしてもサイトの管理人が気に掛かって仕方なかった。
このまま捜査が終わってしまうならばいっそと、上司にこの事実を打ち明けもしたが、
事件は終わったと、突き返されてしまった。
(´・_ゝ・`)「あのハゲが……。ままならねえなあ」
深く溜息を吐くと、デミタスは持っていた缶コーヒーを開けた。
ビル街を行き交う人を眺めながら、缶を傾けてコーヒーを流し込む。
(´・_ゝ・`)「……甘」
反射的に出した舌が風に冷やされて、甘さをかき消していく。
風は甘さを消すだけでなく、人々の言葉をも運んできた。
そしてその中の一つを、デミタスの耳が捉えた。
433 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:43:46.21 ID:O1eAIe2e0
『次、誰かな?』
(´・_ゝ・`)「……次」
頭の中で検索がかけられていく。
次というキーワードに引っかかる違和感。
そもそもの、この事件のきっかけ。
(´・_ゝ・`)「……おいおい、ちょっと待てよ」
やがて違和感は予感に形を変え、デミタスは慌てて携帯を取り出した。
(´・_ゝ・`)「もしもし、俺だ。例の事件の犯人……あぁ、そいつでもどいつでもいい。
動機は何だって言ってた?」
予感をもとに予測が立てられ、現実がそれに即して動き始める。
(´・_ゝ・`)「……ああ、わかった。そうだな、訳わかんねえが錯乱なんてのは良くあることだ。
根気良く訊いてみてくれ。おう、助かった」
終話し、携帯をパタンと閉じると、デミタスは震えた。
喜びか恐れか、あるいは武者震いか。
436 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:44:59.91 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「訳分かるんだよ、これが」
彼らが口に出した動機は、
ともすれば事件のストレスから、錯乱した者の言葉のようにも聞こえた。
しかし少し考えてみれば、十分に理解できる範囲内であったのだ。
_
( ゚∀゚)『閻魔になりたかったんだ。閻魔になれば、俺は皆に凄いって、言われるって。
次の日ニュースが出たときは、そりゃあ誇らしい気持ちになったんだよ……』
(´・ω・`)『閻魔にならなければいけなかったんです。
ノートの空白が、君しか居ないって言ってたんです。
僕がやらなきゃ、駄目だったんです。
直前には、あの名前が何故かすごく憎らしく見えました』
(´・_ゝ・`)「……ふん、ハゲジジイめ。後で後悔したって遅いからな」
デミタスはコーヒーを一気に呷(あお)ると、缶を自販機の横にあったゴミ箱に捨てて、
一目散に駆け出した。
行き先は近くにあったインターネットカフェ。
自腹を切るのは癪だったが、今は一秒でも早くネットに繋ぎたかった。
438 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:46:17.56 ID:O1eAIe2e0
*
(´・_ゝ・`)「本命は、こっちだ」
デミタスがアクセスしたのは例の奈落と言うサイトではなく、
それに関する議論をしている掲示板のスレッドだった。
(´・_ゝ・`)「……これは……ひでえなあ、おい」
スレッドを飛び交う半ば野次のようなレスの数々。
その議論の中心は、もちろん被害者と犯人についてなのだが、
被害者が哀れまれ、犯人を蔑むという構図はここには存在しなかった。
寧ろ逆である。
被害者はとことん蔑まされ、犯人が「神」だの「勇者」だのと呼ばれているのだ。
441 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:47:36.08 ID:O1eAIe2e0
一体何が彼らをそうさせたのか。
デミタスはスレッドのログを読み返し始めた。
『今日またんき仲間と電車で暴れまわってたな。恒例だからすぐ車両変えた』
『相変わらず最低な奴だな』
『マジ氏ねよ』
『そいつ絶対に裏ではもっと酷いことやってるよな』
『同意。これ以上何かする前にマジで氏んで欲しい。生きてる価値なし』
『あいつ薬やってるんでしょ? そんなツラしてるもんな』
『売春の斡旋とかな。害悪既知害グループは消えろ』
『うわ、引くわ……人として最低だな』
『明後日が楽しみだわ』
『氏んで当然のクズ』
(´・_ゝ・`)「……そうか、こいつら実物を見れるのか」
サイトには名前と同時にかなりの情報が漏らされていた。
それを使えば日常を監視すること位わけないだろう。
しかし、勿論ここに書かれていることが全て真実だとは言えない。
443 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:48:54.53 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「簡単に監視できる状況にあるってことが、逆にマズイのか」
誰でも確認できるからこそ、ここに書かれたことが真実のように扱われていたのだ。
そして誰にも確認出来ないからこそ、否定する流れが起きていなかったのだ。
やがて悪意は伝播し、スレッドが一つの単位となって、大きな流れを作る。
(´・_ゝ・`)「間違いないな……あいつらはここを見ていたんだ」
真実と虚構が入り混じり、悪意が怒りを生み、現実と仮想を曖昧にした。
このスレッドこそが殺人犯全ての動機であり、そして殺人犯そのものでもあった。
(´・_ゝ・`)「ヤバイよなあ」
つまり、このスレッドがある限り新たな殺人犯は生まれる。
かと言って、停止したところで別な場所に移るだけなのだ。
この流れを断ち切るには、情報源であるあのサイトの更新を止めなければいけなかった。
444 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:50:06.71 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「くそー……管理人は誰なんだよ」
川 ゚ -゚)「……あのー」
(´・_ゝ・`)「このスレッドを通じて連絡を……」
川 ゚ -゚)「すみません」
(´・_ゝ・`)「ん?」
誰かの呼ぶ声にデミタスが振り返ると、
そこには氷を浮かべたアイスティーを片手に、じっと見つめてくる女の姿があった。
(´・_ゝ・`)「……何か?」
川 ゚ -゚)「ここ、私の席です」
(´・_ゝ・`)「え?」
デミタスは慌ててテーブルの上に置いていた伝票とブースの番号を見比べた。
すると、確かにデミタスのブースはこの隣のようであった。
それに気が付くとデミタスは額に掌を打ちつけ、溜息を吐いた。
446 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:51:06.60 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「いや、申し訳ない。今移動します」
川 ゚ -゚)「いえ」
デミタスが上着を手に取ったのを見ると、女はアイスティーをテーブルの上に置いた。
グラス表面で結露を起こした水滴が、ぽたぽたとテーブルに落ちていく。
(´・_ゝ・`)「飲み物注ぐ場所、遠いんですか?」
川 ゚ -゚)「いえ、すぐそこにありますよ」
(´・_ゝ・`)「そうですか」
そう言ってデミタスは立ち上がると、女に席を譲ろうとブースの外に出た。
しかし女は一向に座る気配を見せず、間を持て余したデミタスは、
そのまま隣のブースへ移ろうとした。
川 ゚ -゚)「あの……」
(´・_ゝ・`)「はい?」
川 ゚ -゚)「このサイト知ってるんですか?」
彼女が指差した画面に映っていたのは、例の『奈落』というサイトだった。
(´・_ゝ・`)「……それが、何か?」
川 ゚ -゚)「私を……助けてください」
(´・_ゝ・`)「……何?」
それがクーとデミタスの、ファーストコンタクトだった。
449 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:52:19.03 ID:O1eAIe2e0
*
二人はその後、クーの行き着けだと言うショットバーへと場所を変えた。
間接照明が優しく照らす店内は、若い男女が思い思いの一時を過ごしており、
デミタスはそれを見るなり眉間にシワを寄せた。
(´・_ゝ・`)「……苦手な場所だ」
川 ゚ -゚)「そんな顔してますよ」
クーは慣れたようにカウンターに座ると、バーテンダーに目配せした。
それを見ながら、なんともぎこちない動きでデミタスはクーの横に座った。
450 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:53:21.01 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「これでも仕事中なんだ。酒は付き合えないぞ」
川 ゚ -゚)「そうなんですか? それは残念ですね」
(´・_ゝ・`)「大体、酒を飲みに来たってわけでもないだろう」
川 ゚ -゚)「さて、どうでしょう」
(´・_ゝ・`)「……」
ジャズピアノの音色が時間をゆっくりと運んでいく中、
デミタスは神経を尖らせ目の前の女の思惑を探っていた。
( ´∀`)「どうぞ」
そんな折、バーテンダーがデミタスに向けてグラスを差し出した。
スノースタイルにされたグラスの中に、ほのかに濁りの入った液体が注がれていた。
452 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:54:25.85 ID:O1eAIe2e0
川 ゚ -゚)「どうぞ、私からです」
(´・_ゝ・`)「仕事中だと言ったが」
川 ゚ -゚)「私の話に興味は無いんですか?」
(´・_ゝ・`)「……どっちが誘ってきたか分かりゃしねえ」
デミタスが悪態を吐くと、すぐにクーにもカクテルが運ばれてきた。
グラスに顔が映るほどに濃厚な赤。
そこにレモンと、セロリのスティックが添えられていた。
川 ゚ -゚)「乾杯、しましょう?」
(´・_ゝ・`)「できるなら、こんな酒は飲みたくなかったな」
川 ゚ -゚)「私と飲むのがそんなに嫌ですか?」
(´・_ゝ・`)「いや、俺は犬が嫌いなんだ」
その言葉を合図に、二人は乾杯をした。
455 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:55:29.85 ID:O1eAIe2e0
*
会話が進むに連れて、デミタスは目の前の女から徐々に興味を失いつつあった。
ただ酒を勧めるばかりで肝心の話にはまったく触れない。
そればかりか、わざと話題を逸らしているようにさえ感じた。
(´・_ゝ・`)「……そろそろ帰るぞ」
川 ゚ -゚)「どちらに?」
(´・_ゝ・`)「どこだっていいだろ。俺は酒を飲みに来たんじゃねえんだよ」
川 ゚ -゚)「……」
(´・_ゝ・`)「とんだ奴に捕まっちまった」
財布から札を適当に取り出すと、デミタスはそれをテーブルの上に置いた。
そして立ち上がると、酔いの加減を確かめた後で、改めてクーを見た。
457 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:56:39.35 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「じゃ、帰らせてもらうぞ」
川 ゚ -゚)「間違いないですね」
(´・_ゝ・`)「間違いも何も、俺は帰るっつったら帰るぞ」
川 ゚ -゚)「いいえ、あなたは純粋にこの話に興味があってここに来たってことです」
話の前後が繋がらないその言葉に、デミタスは眉をひそめた。
その後、目を僅かに広げると、再び苦々しい顔をした。
(´・_ゝ・`)「……お前、俺を試してやがったのか」
川 ゚ -゚)「そういう男ばかり相手にしてきたので、念のためです」
(´・_ゝ・`)「俺が引き止められることを前提にしてたらどうすんだよ」
川 ゚ -゚)「前提にしていたんですか?」
(´・_ゝ・`)「……嫌な女だ。話、聞かせてくれるんだよな」
川 ゚ -゚)「ええ、もちろん」
その言葉にデミタスは舌打ちをし、再びバーカウンターに向かって座りなおした。
続
459 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:58:04.20 ID:O1eAIe2e0
14章
あのホテルでの出来事以来、僕は一人で行動をすることが多くなった。
( ^ω^)「……はぁ」
何を言っているか分からないつまらない講義も、ノートをしっかりととるようになった。
講義が終われば周りに適当に挨拶をして、すぐに帰宅するだけの生活。
僕の大学生活は、たった二人を失うだけでなんとも味気ないものとなってしまった。
463 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:59:24.37 ID:O1eAIe2e0
とは言っても、別に二人が居なくなったわけじゃない。
僕は罪悪感からしぃやツンを避けがちになり、
二人も、僕やもう一人と積極的に接触しようとはしなかった。
それが一日二日と続いて、僕達は他人になった。
講師「以上、今回紹介した四つの重合反応について、
来週までに代表例を交えてレポートを作成してくること」
( ^ω^)「……無茶言うなお」
小声で吐き捨てて、僕はいつものように帰る準備をする。
寄り道のコースを思い浮かべることも無く、
僕は別に家ですることも無いのに、まっすぐに岐路を辿る。
いったい僕はどこで何を失敗したんだろう。
467 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:00:59.68 ID:O1eAIe2e0
( ^ω^)「メール?」
講義室を出てすぐに開いた携帯に、メールが届いていた。
差出人は――しぃ。
用件は簡素もいいところ。
『今日うちに遊びに来てよ』
まるで何も無かったかのようなメールの文面を見て、
僕は心に盾をかざしたまま、返事を送った。
『わかったお』
なんて返事だろう。
良いでも駄目でもなく、『わかった』だなんて。
それにしても最近の僕は、心の中で呟く言葉が随分シニカルになったなあ。
470 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:02:28.71 ID:eICn+DP+O
ブーン行っちゃ駄目だよブーン
469 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:02:01.60 ID:O1eAIe2e0
*
(*゚ー゚)「いらっしゃーい」
扉が開いた先に広がっていたいかにもな可愛らしい内装。そして知らない匂い。
そう言えば女の子の部屋に上がるのは、久しぶりかもしれない。
それにしても、甘い匂いが少しキツイ気がする。
(*゚ー゚)「ささ、どうぞー」
( ^ω^)「おじゃまします」
本当に何も無かったように、しぃは明るいままだった。
全ては僕の勘違いだったんだろうか。
たまたま擦れ違った日が重なっただけで、僕達の関係はそのままだったんだろうか。
472 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:03:26.22 ID:O1eAIe2e0
そう思った矢先に目の前に飛び込んできたのは、
テーブルの上に散らかったアルコールの缶。
甘い、甘い香りは全てを否定していて、僕は悲しい気持ちになった。
(*゚ー゚)「内藤くんも飲む?」
( ^ω^)「……」
何も言わず僕は受け取った。
そろそろ考えるのが面倒くさいんだ。
このまま、酔って、何もかも、関係なくなればいい。
いつかみたいに、また三人で笑いあえるように。
( ^ω^)「……おいしいお」
(*゚ー゚)「ね!」
だから僕は、テーブルの下に落ちていた薬の袋を見ない振りをした。
477 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:04:47.60 ID:O1eAIe2e0
*
いったい何杯飲んだんだろう。
五杯目までは憶えている。
五杯目に飲んだのはディタオレンジだった。
ああ、甘かった甘かった。
今飲んでるのはなんだっけ。
チャイナキス?
僕ライチ好きなんだ。
冷蔵庫の中にどれだけお酒入ってるんだろ。
頭がぐるぐるしてきた。
ほら、ぐーるぐるー。
479 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:05:53.36 ID:O1eAIe2e0
(*゚ー゚)「内藤くんのんでるー?」
( ^ω^)「のんでるおー。おーおー」
(*゚ー゚)「のんでるねー」
( ^ω^)「のんでるおー」
二人して酔っ払いだ。
楽しい楽しい。
しぃもソファにしな垂れかかったまま、
へにゃへにゃと笑っている。
僕も笑った。
(*゚ー゚)「もうのめないよー」
( ^ω^)「僕は、まだまだのむおー」
(*゚ー゚)「あはははは」
( ^ω^)「おっおっお」
ふらふらとコップを掴んで、一気に飲み干した。
胃が冷たくなった。
483 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:07:05.44 ID:O1eAIe2e0
それに喉の奥から上がってくる匂いが甘ったるい。
ちょっと飲みすぎたかも。
でも楽しいからいいや。
いま何時だろう。
(*゚ー゚)「内藤くん、ベランダ開けていい?」
( ^ω^)「ベランダは開かないおー」
(*゚ー゚)「あははは、そうだった」
カーテンが開いて、ベランダ窓が開いた。
冷たい風が流れ込んできて、顔が熱かったことに気付いた。
( ^ω^)「あ〜、風が気持ちいいお」
(*゚ー゚)「うん、気持ちいいね」
壁に手をあて、よろよろとしぃが立ち上がった。
僕はそれを目で追ったまま床に寝た。
486 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:08:32.27 ID:O1eAIe2e0
(*゚ー゚)「内藤くん」
( ^ω^)「なんだおー?」
(*゚ー゚)「あの日ツンとラブホ行ったんだって?」
( ^ω^)「……」
その言葉に自分の表情が、そしてさっきまで緩んでいた思考が、
氷水を掛けられたように引き締まっていくのを感じた。
僕は、すぐに上体を起こしてあぐらをかいた。
( ^ω^)「どうして、知ってるんだお」
(*゚ー゚)「……そんなの、今言う言葉じゃないよ」
痛いところを突かれて、僕は自分の浅ましさに心が沈んだ。
(*゚ー゚)「ショックだなあ。私ね、内藤君好きになって、ツンに後押しされて、それで告白して」
( ^ω^)「……ごめんお」
(*゚ー゚)「別に内藤君だけが悪いわけじゃないよ」
( ^ω^)「……」
いや、恐らく悪いのは僕だ。
……『恐らく』だなんてふざけてる。
絶対に、悪いのは僕だ。
490 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:10:00.41 ID:O1eAIe2e0
(*゚ー゚)「別にツンも悪くないんだよね、きっと」
( ^ω^)「……」
だけど、声が出ない。
悪いのは確かに僕だけど、僕はまだ良い人でいたいんだ。
この流れから、僕たちの中を元に戻せないだろうか。
こんなことになってもまだ、僕は誰からも嫌な目で見られたくないんだ。
(*゚ー゚)「はい!」
僕が鬱々と考えに耽っていると、
突然しぃは元気に片手を上げ、スマイルマークのような笑顔で僕の目を見た。
( ^ω^)「なんだお?」
(*゚ー゚)「私は、今ここから飛び降ります!」
( ^ω^)「え?」
そう宣言するや否や、しぃはベランダに飛び出した。
そして脇に置いてあったプランターを足場にして手すりの上によじ登ると、
ふらふらと二本足で立ち上がって、ピースサインを向けた。
493 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:11:28.05 ID:O1eAIe2e0
(;^ω^)「あ、危ないお!」
(*゚ー゚)「危ないねー」
他人事のようにへにゃへにゃと笑うしぃを前に、僕は慌ててしまって、
両手を前に差し出したまま、次に移すべき行動すらも頭から抜け落ちていた。
(*゚ー゚)「私もう駄目だよ、内藤君。私すっごい弱いんだ。全然こういうことも慣れてなくて」
(;^ω^)「でも、今は酔っ払ってて! だから、まずそこから降りて……」
(*゚ー゚)「私は昨日も一昨日もここに立ちました! えっへん!」
僕はその言葉に、毎晩しぃが一人ベランダの手すりに立つ姿を想像した。
毎晩しぃは何を思っていたのか。
どういう表情で景色を眺めていたのか。
しかし今はそんなことは重要ではない。
僕は余計な想像を切り捨てて、しぃを説得に掛かった。
497 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:12:47.16 ID:O1eAIe2e0
(;^ω^)「駄目だお! 自分を追い詰めちゃ駄目だお! 自殺するなら、悔しいなら、
もっと見返してやろうとか、そう言う方向にするお!」
(*゚ー゚)「自分なんて追い詰めてないよ」
(;^ω^)「お?」
(*゚ー゚)「自殺ってのも違うよ。えーと……そう! 私が死ぬんじゃなくて、
いま私以外が、みーんな死ぬんだよ! やったあ!」
(;^ω^)「何おかしなこといってるんだお! しぃ、ほら、戻って来るんだお!」
(*゚ー゚)「すごいねえ! あっという間にみんな死んじゃうんだよ! あはは!
ふふ……あははは! あー、おかしい」
(;^ω^)「しぃ……」
(*゚ー゚)「みんな、みんなみんな。人も街も夜も朝も。みんな死んじゃうんだ!
んー……んふふ。くふ、くふふふ。えへへ、内藤く〜ん、楽しいねえ」
(;^ω^)「しぃ!」
(*゚ー゚)「違うよね。全然楽しくないよね。あれれ、内藤くんは楽しかったのかな? あは」
(;^ω^)「僕は……」
(*゚ー゚)「大体おかしいよね。断ったの、内藤くんじゃんか」
(;^ω^)「……」
(*゚ー゚)「あは。……あは、あはは! 何それ! みんな、大ッ嫌い!」
しぃが俄に語気を荒げた、まさにその時だった。
あれほど笑顔だったはずの表情が、少しずつ、滑らかに変化していった。
501 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:14:45.32 ID:O1eAIe2e0
眉は徐々に下がり、円らに開かれていた瞳は少しずつ細くなっていった。
緩んでいた筈の口は、何かに耐えるように真一文字に結ばれ、
顎の先がシワシワになっていった。
次いで何かを訴えようと僅かに開かれた唇。
しかしその奥には、声を出すまいと食いしばられた歯が並んでいた。
そして、その目から大量の涙が溢れ、
ぐらりと、しぃの体が後ろに傾いた。
クシャクシャになった顔を隠すように両手で顔を覆い、
「みんな……大ッ嫌い……」
しぃは手すりの上から、冷たい外の世界に、
落ちた。
503 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:15:56.81 ID:O1eAIe2e0
――ドンッ
やけに静かな夜。
聞こえてきた音に、背筋が、凍った。
506 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:17:25.39 ID:O1eAIe2e0
*
落ちていったしぃを見て僕が最初に思ったことは、
覗き込もうか覗き込まないかということだった。
悩んで、悩んで、恐る恐る覗いたけれど、
暗くてはっきりは見えなかった。
けれどもぴくりとも動かないその人影を見て、
僕はその場で携帯を取り出して救急車を呼んだ。
507 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:18:30.30 ID:O1eAIe2e0
しばらくして外が騒がしくなってきた頃に、
僕はしぃの飲み残したカクテルに口を付けた。
ここにしぃが居た。このカクテルをしぃが飲んだ。
この部屋はしぃの部屋で、そこにしぃが居て、
しぃの匂いが、しぃの、しぃの、しぃの――死体。
心の中でごめんなさいと呟きながら、僕はその場で吐いた。
部屋を汚してごめんなさい。
助けられなくてごめんなさい。
飛び降りたあと、すぐに駆けつけなくてごめんなさい。
返事を先延ばししてホテルに行ってごめんなさい。
怖がってごめんなさい。
笑って、叫んで、泣いたところで人が来た。
連れて行かれて、色々訊かれた気もする。
ここら辺の記憶は酔っていたせいか、はっきりしない。
それに思い出したくもない。
509 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:19:50.73 ID:O1eAIe2e0
そう、僕はここに恋というものの意味を知った。
それはベランダから飛び降りたしぃと同じものなのだ。
届いたら、オシマイ。
この酷いジョークを思いついた時から既に、
僕の中で守るべき倫理観と言うものが、崩壊し始めていたのかもしれない。
続
510 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:20:00.06 ID:bA3K7TH70
落ち着け俺、更新を連打しても意味は無い
紫煙
517 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:21:47.32 ID:LDKqW2s3O
>>510
それ何て俺?
わかってても思わず連打支援
513 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:21:00.43 ID:bCZ6uvau0
まままmだ、ああああ慌てるようなッじじ時間じゃない
519 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:22:08.13 ID:O1eAIe2e0
15章
('A`)「あははははははははははは! あー! あーあー……はは……ははははははははは!」
最高。エクセレント。ざまあみろ。
この前しぃに写真を送ってからと言うもの、思い出すたび笑いが止まらない。
ここ最近のしぃからの愛の連絡で俺には良く分かるぜ。
奴はしぃと繋がりを失った。
('A`)「くふ……ふふふふ……あーっははははははははははは!」
惨めだなあ。内藤ホライゾン。
大体しぃが本気でお前のことを好きなわけないだろ?
これはなぁ、照れ屋のしぃが、俺の気を引く為に、打った芝居なんだよ。
522 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:23:28.63 ID:O1eAIe2e0
('A`)「大丈夫。わかってるよ、しぃ。ふふふ、本当に可愛いなあ」
この歯痒い位の距離感。
お互いに分かりつつも、決してそれを表に全て出すことは無い。
素晴らしい純愛だろ。マジでこの世で最高の、神聖なカップル。
性欲しか無い豚どもが決して辿り着けない高み。
俺達は正しい人間。霊長類様。
('A`)「……さーて、あとはこのクソどもを誘導するだけだな」
しかし、どこの誰だか知らないが、いいシステムを作ってくれたもんだ。
奈落だかなんだか知らないが、書かれている名前が自動的に凶悪犯になる。
そしてそれを有志が殺してくれる。
524 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:24:37.17 ID:O1eAIe2e0
皆この中から実行犯が出ていると気付いているのに、
殺人犯は自分達とは関係ない遠い存在として祭り上げている。
そうして自分は綺麗であり続けようとするクソッタレな奴等だ。
そして、このシステムの最高にクソッタレなところは、
既にシステムが一人立ち出来るほど成熟しているところだ。
('A`)「アップロード、完了。あとはアドレスを張るだけ、と」
奴等はいわば目的の無い憎悪だけの代物。
方向を示せば、それに付き従う生粋の能無し野郎だ。
だから?
そう、例えばもうその目的は『本物』である必要は無いんじゃないか?
('A`)「俺が模倣した第二の閻魔帳の登場だ」
煽り文句とアドレスを張れば完了。
例え失敗したとして、俺に損はあるか? 無いだろう?
罪はあるか? 無いだろう!?
526 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:25:45.09 ID:O1eAIe2e0
296 :名無し:2008/01/13(日) 18:43:23.07 ID:dfg+Uqw80
>>295
これ、マジ?
297 :名無し:2008/01/13(日) 18:44:20.09 ID:A3kmBOWfO
祭り?
298 :名無し:2008/01/13(日) 18:44:27.44 ID:TTvPZEeq0
おい、この名前検索かけたら引っかかったぞ
こいつ人殺しかも
('A`)「バーカ、そりゃ俺のブログの記事だよ。それも架空の事件のな」
食いつきは上々。能無しどもめ。
後は決定打があれば……。
528 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:26:57.24 ID:O1eAIe2e0
299 :名無し:2008/01/13(日) 18:48:40.47 ID:SsdFKgfQO
その事件あんまり名前挙がらないけど、有名だぞ。
本当はそいつがやったってのが定説らしい。
300 :名無し:2008/01/13(日) 18:49:16.16 ID:pcDfjSiv0
>>299
だよな、知らないとかマジゆとりだろ
301 :名無し:2008/01/13(日) 18:52:22.50 ID:ghEfgsGgO
なんだ、またクズかよ
氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね
('∀`)「……クク……ククク……あーっはっはっはっは!
なんだよこいつ等! マジで想像力豊か過ぎるだろ!」
530 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:28:02.82 ID:07xSe1zwO
吐き気を催すほどの悪だな
534 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:29:15.33 ID:bA3K7TH70
>>530
一概に悪と言えるのだろうか?
538 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:30:24.57 ID:rws8T/ryO
だせぇと思ってたタイトルが
段々これしか考えられなくなってきた
532 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:28:37.13 ID:cvofisk+0
これ聞きながら見てる俺は勝ち組
ttp://sageupload.rdy.jp/12upload/src/sage12_5907.mp3
531 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:28:04.42 ID:O1eAIe2e0
最高だ。
これで俺が立ち上げたサイトは地位もバッチリ。
記念すべき第一号の名前? もちろん内藤ホライゾンだ。
しぃからいろいろな事を教えてもらってるからな、わけねぇよ。
('A`)「これで俺達を邪魔する奴はもう完全に居なくなるんだ。
そしてこれからも誰も俺達を邪魔できない。やべえ」
ほっときゃ誰か頭のおかしい奴がやってくれるだろう。
そん時は存分に褒めてやるぜ。
歪んだ現代の救世主だ! ってな。
('A`)「おっと、しぃを大分ほったらかしにしちゃったな」
しぃが寂しがっちゃうからな。
大丈夫、今繋ぐよ。
535 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:29:37.46 ID:O1eAIe2e0
('A`)「ん? なんだ。ケンカ?」
やけに怒鳴ってる奴の声が聞こえる。
この声は……まさかアイツか?
おい、今しぃは家に居るんだぞ。
なんでお前の声が聞こえるんだよ。
('A`#)「おい! ふざけんな! 帰れよ!」
クソッタレが! 上手く聞き取れねえ!
なんだ、何を話してるんだ。
('A`)「……収まった?」
なんだ、あいつ帰ったのか?
妙に静かになりやがった。
くそ、しぃに何かしてたら承知しねえ。
539 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:30:48.78 ID:O1eAIe2e0
('A`)「……は?」
今、お前なんて言った?
('A`#)「おい、内藤! お前今なんて言った!
救急車って言ったのか!? おい!」
ふざけんな。
なんで救急車呼んでんだよ。
早くしぃの声聞かせろよ。
('A`#)「クソッタレ!」
早くしぃのところに行かなきゃ。
早くしぃを助けなきゃ。
救急車とかマジふざけんなよ。
543 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:32:35.63 ID:O1eAIe2e0
*
('A`)「はぁ……はぁ……はぁ……」
そして俺が辿り着いたしぃのマンション。
その駐車場近くに人が疎らに集まっていた。
('A`)「……」
遠巻きに眺めてる奴等に、うずくまった奴等。
何を見てるんだよ。
誰か答えろよ。
547 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:33:50.45 ID:O1eAIe2e0
('A`)「嘘……だろ……」
そいつらが見ていたのは、冷たい地面にうつ伏せに寝るしぃだった。
髪は乱れてて、腕と足が操り人形みたいに変な方向を向いていた。
('A`;)「しぃ!」
駆け寄って、肩を掴んで起こした。
('A`)「え……潰……れ」
押しつぶした仮面みたいに、しぃの顔は平らになっていた。
後ろで誰かの吐く音がした。
('A`#)「なに吐いてんだよ! しぃの顔見て吐いてんじゃねぇよ!」
サイレンが聞こえる。
車のタイヤが、小石を踏む音がする。
マンションの壁に真っ赤な模様が見える。
しぃの顔は潰れたまま。
552 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:35:08.31 ID:O1eAIe2e0
('A`)「……ゆるさねえ」
俺が甘かった。
内藤ホライゾンは、正真正銘のクズだった。
俺の罰し方がぬるかったばかりに、奴はつけあがった。
あいつは……。
('A`#)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
ぶっ殺す……ぶっ殺す! ぶち殺してやる! ぶち殺してやる!」
待ってられねえ。俺が、閻魔になる。
しぃを殺しやがったあの豚野郎を、もう一秒たりとも放置できない。
558 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:36:10.17 ID:O1eAIe2e0
病院へタクシーで向かっている間も、
俺は泣きながら内藤を殺すことを考えていた。
警察に連れて行かれて事情聴取を受けている間も、
俺は話しながら内藤を殺すことを考えていた。
内藤を殺すことを考えている間も、
俺は内藤を殺すことを考えていた。
内藤を殺すことを考えていた。
俺は内藤を殺すことを考えていた。
続
561 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:37:59.47 ID:O1eAIe2e0
十六章
川 ゚ -゚)「例のスレッド。あなたは御覧になりましたか」
(´・_ゝ・`)「ああ。過去に起こった事件の時のログを読んだ」
川 ゚ -゚)「では最近の動向は?」
(´・_ゝ・`)「なんか変わったのか?」
川 ゚ -゚)「……はい」
クーは上着のポケットからPDAを取り出すと、
いくらか操作を加えてデミタスに渡した。
画面に映されていたのは、今話題に上げたスレッドであった。
(´・_ゝ・`)「これは?」
川 ゚ -゚)「とにかく読んでみてください」
言われるままにスレッドの流れを追うデミタス。
しかし、彼にはクーが何を言いたいのかが把握できない。
564 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:39:06.59 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「分からん。俺が見たのと同じに見えるが」
川 ゚ -゚)「そのアドレス、踏んでみてください」
(´・_ゝ・`)「ん、これか?」
指差されたアドレスを、デミタスはそのままペンでタッチした。
すると開かれたページは、何度も見た奈落というサイトのようだった。
(´・_ゝ・`)「……このサイトが何だって言うんだ?」
川 ゚ -゚)「そのサイト、例のサイトじゃないんです」
(´・_ゝ・`)「ん? どういうことだ。被害者の名前も書いて……おい、名前が違うぞ」
川 ゚ -゚)「模倣サイトなんです」
(´・_ゝ・`)「……模倣サイト? 改装でもなく、あくまでも模倣サイトなのか」
川 ゚ -゚)「はい」
(´・_ゝ・`)「だとしたらこのスレッドに書き込んでる奴らはどうして気付かない」
川 ゚ -゚)「いえ、みんな気付いています」
(´・_ゝ・`)「……偽物だと気付いてるのに、こんなに盛り上がってるってか」
川 ゚ -゚)「もはや、彼らには関係ないんです」
(´・_ゝ・`)「……」
デミタスは眉間の辺りを押さえると、舌打ちをし、閉じた歯の隙間から鋭く息を吸った。
570 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:40:10.46 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「これは……予想以上にヤバイな」
川 ゚ -゚)「ええ」
(´・_ゝ・`)「それで、お前はここに名前を書かれたから、助けてくれって俺に言いにきたんだな?」
川 ゚ -゚)「いえ、そのサイトには私の名前はありません」
(´・_ゝ・`)「何? じゃあ何だってんだ」
川 ゚ -゚)「この流れを止めてください」
(´・_ゝ・`)「……何故?」
川 ゚ -゚)「……」
(´・_ゝ・`)「まあこの流れが悪いことは誰にだって分かる。
だけど、それを一般人のお前がわざわざ他人にまで頼む意味が分からない」
川 ゚ -゚)「……罪悪感です」
(´・_ゝ・`)「……お前、まさか……」
川 ゚ -゚)「私がオリジナルの、奈落の管理人なんです」
(´・_ゝ・`)「……」
川 ゚ -゚)「……」
デミタスはジッとクーの顔を見つめ、
クーもまたデミタスから目線を逸らすことは無かった。
572 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:40:31.85 ID:4I3uI9S10
川´・_ゝ・`)「ほんのちょこっとなんだけど髪型を変えてみたー」
川 ゚ -゚)「いえ、みんな気付いています」
573 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:41:00.38 ID:5WJuZPaa0
予想GUYです
575 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:41:10.50 ID:bA3K7TH70
>>572
なるほど、ニヤってしたじゃねぇかw
577 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:41:34.53 ID:O1eAIe2e0
やがてデミタスは自らのポケットに視線を移すと、
そこからタバコを取り出し、火を点けた。
(´・_ゝ・`)「落ち着きがなくなるとタバコを吸いたくなるんだ。我慢してくれ」
川 ゚ -゚)「どうぞ」
ゆっくりと時間を掛けて煙を肺に落とし、
タバコを口から離すとそのまま数秒静止。
そして吸った時と同様に静かに、ゆっくりと紫煙を口から逃がしていく。
そうして何度かタバコを燻(くゆ)らせたデミタスは、改めてクーの顔を見た。
582 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:43:10.05 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「お前なのか」
川 ゚ -゚)「はい」
(´・_ゝ・`)「あんなに沢山殺しといて、今更罪悪感か?」
川 ゚ -゚)「はい」
(´・_ゝ・`)「反論は無いんだな」
川 ゚ -゚)「形はどうあれ、私は共犯に違いありません」
(´・_ゝ・`)「……違うな。お前はそんな奴じゃない」
川 ゚ -゚)「推定で人格を否定しないで下さい」
(´・_ゝ・`)「人格は他人が決めるもんだ」
川 ゚ -゚)「それを否定する権利は私にあります」
(´・_ゝ・`)「ふん、人殺しめ」
川 ゚ -゚)「……」
綺麗に磨かれたガラス細工の灰皿に、デミタスは煙草の火を押し付けた。
そしてグラスに口を付けると、それを持ったままクーを指差した。
(´・_ゝ・`)「断言する。お前はこの状況を楽しんでいた。
少なくとも自分のサイトだけだったときはな」
川 ゚ -゚)「では何故私は今ここにいるのですか?」
(´・_ゝ・`)「さあな、俺は哲学が苦手だからな」
川 ゚ -゚)「はぐらかさないで下さい」
(´・_ゝ・`)「それはお前だ。言いたいことがあるなら言え。俺はお前のカウンセラーじゃねえんだ」
川 ゚ -゚)「……」
溜息を吐き、クーはデミタスから視線を外すとカウンターに腕を乗せた。
そしてグラスを両手で握り、ポツリポツリと語り始めた。
586 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:45:18.45 ID:O1eAIe2e0
川 ゚ -゚)「事の始まりは、私がある事件を目撃したことに始まります」
(´・_ゝ・`)「手短に頼むぞ」
川 ゚ -゚)「はい。あれは私がとある用事でレストランに急いでいる時でした。
少年と口論をしていた男が、階段の上から少年を突き落としたのを見てしまったのです。
少年は全身を強く打って、左下半身が麻痺するという不幸を被りました」
(´・_ゝ・`)「そりゃあ、可哀想だな。その男も何を考えていたんだか」
川 ゚ -゚)「しかし、男は逮捕すらされませんでした」
(´・_ゝ・`)「は? だって、お前見てたんだろ? それに、周りにまだ人も居るだろ」
川 ゚ -゚)「いえ、偶然にも私とその男、そして少年の三人だけだったんです」
(´・_ゝ・`)「……となると、お前も男も犯人はもう一人の方だと言うだろうな」
川 ゚ -゚)「ええ。しかし最終的に、少年が足を滑らせた事故という形で終わりました」
(´・_ゝ・`)「救われねえな。……まさか、その男の名前は」
川 ゚ -゚)「はい、あのサイトで最初に挙げた名前です」
590 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:47:04.12 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「……読めてきたな。お前は無実とはいえ、その男と運命共同体だ。
恐らくお前らは、お互いに声には出さずとも通じ合っていたはずだ」
川 ゚ -゚)「ええ、そうですね。少年は更に不幸なことに、記憶までもが欠落していたのです。
覚えていないのだから余計なことはするな。男の眼はそう言っていました」
(´・_ゝ・`)「お前の眼もな」
川 ゚ -゚)「……。そして私は男と何度か外で会うようになりました。
世間話のようなものをしながらの、腹の探り合い。
私は、会うたびに目の前の男に嫌悪感を募らせていきました」
(´・_ゝ・`)「……」
川 ゚ -゚)「……勿論、私自身に対しても」
(´・_ゝ・`)「それで、サイトを立ち上げたと」
川 ゚ -゚)「はい。ですが、正直なところこんなことになるとは夢にも思いませんでした。
最初は、ただこういう悪人が居るということだけを知らせたかっただけなんです」
(´・_ゝ・`)「だけどな、お前はただ情報を垂れ流しただけで、
その男の本質には触れてないじゃないか。それでどうして知らしめられる」
川 ゚ -゚)「書き込めばいいんです」
(´・_ゝ・`)「……お前」
川 ゚ -゚)「写真や事件の概要を至る所に書き込むんです。出来るだけ感情を煽るようにして」
(´・_ゝ・`)「しれっとした顔で言いやがって……」
594 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:48:58.26 ID:O1eAIe2e0
川 ゚ -゚)「そうして広く認識されたところで、悪は裁かれるということを知らしめるため、
私はサイトにあらかじめ記載しておいた日付に、彼を殺しにいきました」
(´・_ゝ・`)「なるほど。流れの出来ていない一人目は、おまえ自身がやったってわけか」
川 ゚ -゚)「いえ、ところが彼は殺されていたんです。私以外の別な人物に」
(´・_ゝ・`)「……」
川 ゚ -゚)「それが誰かは今も分かりません。しかし掲示板はこの事実に熱狂し、
殺人犯を神と崇め、殺人犯もまた、それに酔いしれているようでした」
(´・_ゝ・`)「待て、本人が来たのか」
川 ゚ -゚)「ええ」
(´・_ゝ・`)「しかし、お前犯人が誰なのか分からないんだろ?」
川 ゚ -゚)「舌です」
(´・_ゝ・`)「……舌?」
川 ゚ -゚)「犯人らしき人物は最初、事件が明るみに出る前に、
『舌を切り取った』と書き込んでいたんです。そして、事実が遅れてそれに答えた」
(´・_ゝ・`)「……それから舌を切り取るなんていうのが習慣になったのか」
川 ゚ -゚)「恐らくそうでしょう」
598 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:50:10.21 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「しかし……そんなに早くから、始まっていたのか……」
川 ゚ -゚)「ええ。私一人から生じたはずだった悪意が、いつの間にかネットの海を伝播し、
気付けば手の付けられないところまで成長してしまったのです」
(´・_ゝ・`)「気付けば……ねえ。ところで、二人目以降の情報はどうやって手に入れた」
川 ゚ -゚)「SNS……ソーシャルネットワーキングサービスはご存知ですか?」
(´・_ゝ・`)「知ってるが……」
川 ゚ -゚)「憎しみに駆られた私は、あるSNSに行き、悪人らしい人物を探し出して、
コンタクトを取るようになりました。もちろん、実際に会ったりもしました」
その言葉にデミタスが薄く笑った。
(´・_ゝ・`)「ふん、やっぱりお前は下衆だな」
川 ゚ -゚)「そういった言葉を使う方も、どうかと思いますが」
(´・_ゝ・`)「お前、二人目の情報をサイトに上げた時、どんな気分だった?」
川 ゚ -゚)「……」
601 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:51:18.66 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「俺が言ってやろうか。
お前はこれまで味わったことの無いような気分の高揚に酔いしれていた。
そしてサイトを更新した後のスレッドの反応を想像して悦に浸り、
更新後、想像通りに沸き立つスレッドの様子を見て、更に快感を得た」
川 ゚ -゚)「……」
(´・_ゝ・`)「一人目で止めておけば、こうはならなかったかもしれない。
しかしお前は癖になっていたんだ。この自分が注目されている感覚に。
お前、二人目にはそんなに恨みも無かったんだろ」
川 ゚ -゚)「それは違います。二人目だろうが三人目だろうが、彼らは間違いなく悪者でした。
だから私はそれを伝えるために……」
(´・_ゝ・`)「それじゃあ、二人目はお前、殺しに行ったのか?」
川 ゚ -゚)「それは……」
(´・_ゝ・`)「大方、家でスレッドの流れでも見ていたんだろ。次も殺されるのか、殺されないのか、
そう考えながらお前は画面を見ていた」
川 ゚ -゚)「……」
(´・_ゝ・`)「まるで他人事だ。お前の確たる意思はなく、
既にお前も茫漠(ぼうばく)とした悪意の内の一つに、成り下がっていたんだ」
長い対話の果てに、クーは言葉を失い、目を伏せた。
しかしその様子を見ても尚、デミタスは口を開くことを止めなかった。
603 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:52:26.33 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「それが、今更になって罪悪感か。面白すぎるな。
いったい俺に何をしてほしいんだ? 褒めてあげれば良いのかな? ん?」
川 ゚ -゚)「誰かに知って欲しかったんです。不確かなネットの世界ではなく、現実の世界で」
(´・_ゝ・`)「知らせてどうする。俺に何を望んでいるんだ」
川 ゚ -゚)「……知っていただいた今、何故かもうこれ以上何もする気が起きなくなりました」
(´・_ゝ・`)「助けてくれって言ってたじゃないか」
川 ゚ -゚)「そう、でしたね」
(´・_ゝ・`)「……」
萎れてしまった。
デミタスは目の前の女を見てそう思った。
想像よりも脆かった管理人の実態に、デミタスは正直がっかりしていた。
結局は自身も、このネットに共有された悪意の大きさに中(あ)てられ、
実際よりも巨大な悪を勝手に心の中に作り上げていただけなのかも知れない。
そう思い、彼は飲みかけのグラスに口を付けた。
604 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:52:36.05 ID:hEokCpju0
おいデミタス・・・そろそろやめないと
606 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:53:31.39 ID:07xSe1zwO
ネットには魔物が棲んでいるよ…
605 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:53:30.75 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「……話は終わりか?」
川 ゚ -゚)「……ええ」
(´・_ゝ・`)「……そうか」
唐突に話が途切れてしまったという空気が、彼らを包んでいた。
恐らくは、まだこの話にも続きがあるに違いないが、クーはそれを話そうとはしなかった。
やがて彼女は財布から取り出した札をカウンターに置き、マスターに目配せをした。
意思の疎通が図れたと認識したのか、外套を身に付け、そのまま席を立った。
(´・_ゝ・`)「帰るのか」
川 ゚ -゚)「はい」
ふと、デミタスは自分の手元にあったPDAを思い出すと、
それをクーの元に差し出した。
608 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:54:47.91 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「忘れ物」
川 ゚ -゚)「……いいです。それは、今日のお礼にあなたにあげます」
(´・_ゝ・`)「こんな高い物貰えねぇよ」
川 ゚ -゚)「それじゃあ、せめて明日まで取っておいてください」
(´・_ゝ・`)「なんだ? 明日またよこせってか」
川 ゚ -゚)「いえ、明日は私の命日なんです」
デミタスがその言葉の意味を考えているうちに、クーはバーを立ち去った。
(´・_ゝ・`)「……命日?」
やがてその言葉の持つ意味に気付いた時、デミタスは身の震えと共にPDAに飛びついた。
小さな画面を食い入るように見つめがら、慌てた様子で操作をする。
そうして辿り着いた場所はオリジナルの奈落。
そこに表示された文章を見て、デミタスは息を飲んだ。
610 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:55:32.82 ID:O1eAIe2e0
[八月二十一日 亡]
八月三十日 素直クール 【詳細】
612 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:56:37.73 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「……バカ野郎っ!」
デミタスはすぐにバーを飛び出し、辺りを見回した。
しかし既にクーの姿はどこにも見当たらない。
(´・_ゝ・`)「くそっ! それは違うだろ、一番胸糞悪いじゃねえか!」
だが、デミタスの叫びは誰に届くことも無く、
圧倒的な夜の闇の中へと吸い込まれていく。
そして翌々日、クーは遺体となって発見された。
続
613 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:57:02.55 ID:JRMm++xJ0
うわあああ
616 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:57:58.89 ID:hEokCpju0
こわい
もう・・・でも読んじゃう
618 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 02:58:16.11 ID:0b2SgBsN0
鬱だ
その1
序章 1章 2章 三章 4章
その2
5章 6章 七章 8章
その3
9章 10章 十一章 12章
その4 ←いまココ
13章 14章 15章 十六章
その5
17章 終章 あとがき