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2008年01月21日

( ^ω^)悪意のようです その2

その1
序章  1章  2章  三章  4章
その2 ←いまココ
5章  6章  七章  8章
その3
9章  10章  十一章  12章
その4
13章  14章  15章  十六章
その5
17章  終章  あとがき

122 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:28:22.33 ID:ZgCYV95x0
5章



( ´_ゝ`)「ツンに彼氏か……」

 職場で一人溜息を吐く兄者。
仕事にも全く手を付けず、頬杖を突きどこか遠くの方を見つめていた。
その様子を見て、女性社員が声を掛けた。

川 ゚ -゚)「どうしたんですか? 兄者さん」
( ´_ゝ`)「あぁ、クー……。どうにも娘に男の影がちらついて、仕事に集中できなくて……」
川 ゚ -゚)「娘さん、おいくつでしたっけ?」
( ´_ゝ`)「今年で……二十歳、か」
川 ゚ -゚)「もう二十歳なのにそんなこと言うなんて、ウザイですね」

 兄者は先輩であるはずなのだが、クーはそれとはお構い無しに意見を言うタイプだった。
しかしながら兄者は既に慣れていたし、元々先輩後輩の垣根を気にしない人物だったので、
なんら咎めることはしなかった。

127 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:30:19.78 ID:ZgCYV95x0
( ´_ゝ`)「分かっては、いるんだがなぁ……あぁ……うん……」
 川 ゚ -゚)「はい、資料出来上がりました。これ今日中ですよ」
( ´_ゝ`)「ん、ああ……」

 資料を受け取ったものの、それをぼうっと眺めるばかりで、
兄者はまるで仕事に身が入っていないようであった。

 川 ゚ -゚)「……そんなに心配なら本人に訊いてみればいいじゃないですか」
(;´_ゝ`)「うーむ……どんな風に訊いたら良いものか……。何か、アイディアはないか?」
 川 ゚ -゚)「じゃあ私が実践しますから、相手お願いします」
( ´_ゝ`)「うむ、わかった。俺が訊かれる側だな?」
 川 ゚ -゚)「そうです」

 兄者はクーの返事を聞くと、
座ったまま背筋を伸ばし、彼女と向かい合いあった。

132 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:31:41.10 ID:ZgCYV95x0
 川 ゚ -゚)「兄者さん、今付き合ってる人居ますか?」
(;´_ゝ`)「や、やけに直球だな」
 川 ゚ -゚)「直球が良いんです」
( ´_ゝ`)「そ、そうなのか……。いや、居ないぞ。安心してくれ」
 川 ゚ -゚)「そうなんですか。よかった。好きです、私と付き合ってください」
( ´_ゝ`)「……ん? なんで俺がツンに告白するんだ?」
 川 ゚ -゚)「いいえ、これは私の告白です。兄者さん、ずっと好きでした」
(;´_ゝ`)「……ん? んんんん? ちょっと待て。
      これは、その、予行練習と言うか……あれ?」
 川 ゚ -゚)「もし良かったら今夜七時にあのレストランで待ってます。
      それじゃあ、仕事、早く片付けてくださいね」
(;´_ゝ`)「え、あ、おい! あ、あれ?」

 その後、背を向けて自分のデスクに戻るクーを眺めたまま、
兄者はしばらく、今起きた出来事の整理を頭の中でしていた。

(;´_ゝ`)「俺には妻が……いや、もう居ないけど……しかし……いや、そもそも……え?」

結局、その日はほとんど仕事が進むことは無かった。

133 :VIPがお送りします。:2008/01/19(土) 23:32:26.19 ID:EFGExZYcO
これはいい素クール支援

136 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:33:24.22 ID:ZgCYV95x0



                   *



( ´_ゝ`)「……ちょっと早かったかな」

 クーの言っていたレストランに一人、スーツ姿の兄者が居た。
一度帰る時間はあったのだが、来ていく服が思い浮かばなかったので、
スーツ姿のまま兄者はクーを待つことにした。

( ´_ゝ`)「……問題は、まだ返事を考えていないということだな」

 あまりに想定外の出来事であるのと同時に、
兄者は自分の複雑な立場から、どう返事をしたものかと迷っていた。

142 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:34:47.11 ID:ZgCYV95x0
( ´_ゝ`)「……待ち合わせ、七時だったよな?」

 そう呟いて時計を確認すると、針は八時半を差していた。
さすがに遅すぎると思った兄者が、チラチラと入り口の方を見る。
それを見たウエイターが、再び水を注ぎに来た。

( ´_ゝ`)「あ、どうも」

ウエイターに軽く礼を言ったその時、不意に兄者の携帯電話が震え始めた。

( ´_ゝ`)「おお、クーか」

ディスプレイにクーの名前を確認した兄者は、そのまま電話に出た。

146 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:36:25.01 ID:ZgCYV95x0
 川 ゚ -゚)『ごめんなさい、急に面倒なことに巻き込まれました。
      申し訳ないですけど、お食事は今度にしましょう』
( ´_ゝ`)「面倒なこと? それならもう今日は来られないのか?」
 川 ゚ -゚)『ごめんなさい』
( ´_ゝ`)「そうか。まあいい。それじゃあまた日を改めて」
 川 ゚ -゚)『はい』

( ´_ゝ`)「ふう……」

 溜息を吐いて携帯の画面をしばらく眺めると、兄者はツンに電話を掛けた。

( ´_ゝ`)「ツンか? ああ、ご飯はもう食べたか?
      そうか、それはちょうど良い。今から一緒にご飯を食べよう」

 そうして、兄者はツンと夕食を食べ、改めて決意を固めたのであった。

150 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:37:43.64 ID:ZgCYV95x0



                   *



 しかしそれからというもの、クーが兄者の誘いを悉(ことごと)く断り続ける日々が続いた。

( ´_ゝ`)「なあ、クー。今晩……」
 川 ゚ -゚)「すみません。今日は別な人と約束があるので」
(;´_ゝ`)「いや、しかしだな。この間の……」
 川 ゚ -゚)「それでは」
(;´_ゝ`)「……はぁ」

 ほとんど毎日声を掛けているのに、毎回断られるのだ。
一体何があったといのうか。
女心と秋の空ということわざが、兄者の頭の中で笑っていた。

152 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:38:47.72 ID:ZgCYV95x0
( ´_ゝ`)「まあ、断るつもりだからそこまで俺が必死になることも無いんだが……」

 どっち付かずの、なんとも気持ち悪い状態が嫌で兄者はしばらく声を掛け続けたが、
一度としてクーがそれに応えることは無く、兄者もいつの間にか自然と声を掛けなくなっていった。

 その理由を兄者が知る日は来なかったが、
レストランの一件以来、クーの顔つきが日を追うごとに険しくなっていっているのを、
兄者は確かに感じていた。





155 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:40:13.10 ID:ZgCYV95x0
6章



 昼間だと言うのに、その部屋は暗かった。
壁には無数の印刷物。
紙の上で笑う女の子は、四方の壁を包み、天井までにも存在した。

机には黒い油性ペンの文字。

『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』
『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』『しぃ』……折り返し。

床には叩きつけられ壊れたままの目覚まし時計が転がり、
びっしり『愛』と書き込まれた紙が、何枚も散らばっている。

159 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:41:27.94 ID:ZgCYV95x0
('A`)「……」

 そんな異常な部屋で、ドクオはヘッドホンをしながらネットサーフィンをしていた。
ヘッドホンから漏れる音は、その想い人の声、そしてその周辺の音。
彼の日課となった盗聴作業である。

('A`)「……フ、フフ。わかるわかる」

 聞こえてくる声に、届かぬ相槌を打ってドクオは笑った。
かと思えば今度は急にその表情を曇らせ、
雄叫びを上げながら机に拳を打ちつけた。

(#'A`)「あああああ! くそぉぉぉぉぉぉ!」

 ディスプレイ脇のティッシュ箱に目を向ける。
そこに突き刺さっていたバタフライナイフの柄を掴むと、
乱暴に振り回し、箱から刃を抜いた。

160 :VIPがお送りします。:2008/01/19(土) 23:42:49.31 ID:FhwG2D3xO
これはいいドクオ

162 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:43:32.44 ID:ZgCYV95x0
(#'A`)「くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! ああああああああああ!」

 プラスチックのキーボード目掛けて、
まるでハンマーのようにガンガンとナイフを振り下ろす。
しかしストレスが発散しきれないと感じると、
今度は机をやたらに切りつけ、ナイフを床に抛った。

 そしてキーボードを破壊すべく、拳をホームポジションの辺りに打ちつける。
ディスプレイには意味のない文字の羅列が並び、床にはキーが散らばり、
やはり意味のない文字列が並んだ。

 キーボードを破壊し満足したのか、
ドクオは最早使い物にならないキーボードを机の上から投げ捨て、
引き出しからノートPCを取り出しLANケーブルを繋いだ。

164 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:44:53.74 ID:ZgCYV95x0
('A`)「……ごめんね、ごめんね、しぃ。ビックリしちゃったよね」

 俯いたままどこを見るとも無くブツブツと呟くと、ノートPCを即座に起動させ、
ドクオは再びネットサーフィンを始めた。
デスクトップは未だに点いたままで、ヘッドホンからの音も依然変わらないのだが。

('A`)「……そうだ、この前ブログで見た……」

 呟くと、ドクオは流れるようなタイピングでアドレスを手打ち入力し、
軽やかにエンターキーを押した。
画面に表示されたのは、簡素なデザインのサイトだった。

('A`)「へえ……」

 背景は黒一色。
BGMは一切流れず、ただ古印体の赤字で『奈落』と書かれたサイトのタイトルと、
その下方に下線が引かれた『入水』と言う文字のみが書かれていた。

166 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:46:01.08 ID:ZgCYV95x0
('A`)「奈落……ねえ」

 プロキシのチェックを今一度し、サイトのソースをざっと調べた後、
ドクオは入水の文字をクリックした。

 程なくして開かれたページは相変わらず黒い背景のままだった。
だが、その代わりスクロールしても画面中央に付きまとってくる鬼のような顔があった。

 赤い顔色で、眼は見開かれ金色に輝いている。
大層豪華な帽子を被り、顔中に深いしわを作って笑っていた。

 マウスのホイールを転がし、ただその顔があるだけのページをスクロールし続けると、
やがて何も見つからぬままにページが終わった。

168 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:47:10.42 ID:ZgCYV95x0
('A`)「……クサいな」

 タブキーを一回押す。
それだけで容易に背景と同じ色をしたリンクの張られたドットが発見された。

('A`)「子供騙しかっての」

 そのままエンター。マウスポインタが一瞬砂時計に変わり、ページが切り替わった。
その先のページでドクオが見たものは、その名も大仰な閻魔帳なるものだった。

('A`)「……マジかよ。ただの噂かと思ってたが、こりゃあ……」

 記されている文章の数々に、
ドクオは知らず知らず息を飲み、冷や汗が流れるのを感じた。
そこには更新月日と共に、名前と、【詳細】という文字が書かれていた。

170 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:48:38.34 ID:ZgCYV95x0
 それだけならば大した問題ではないのだが、
問題なのは、それら全てに更新月日よりも“後”に位置する、
死亡月日が書かれていたことである。

 つまりこのサイトの更新者は、
あらかじめこれらの人物がいつ死ぬかを、知っていたということになる。
そこでドクオは、すかさず検索エンジンにキーワードを叩き込んだ。

('A`)「六月二十五日、荒巻スカルチノフ……ナイフでメッタ挿しにされ失血死。
   ……次、七月九日、斉藤またんき……鈍器で後頭部を殴られ死亡……」

 頭の中をグルグルと思考が駆け巡る。
これが事実ならば、サイトの管理者は予言者か、
もしくは大々的に殺人予告をしていることになる。
勘違いの可能性はないか。サイトの信憑性は。時間の前後関係は。

172 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:49:43.37 ID:ZgCYV95x0
('A`)「いや、別に全部が事前に書き込まれていたと決まったわけじゃないか」

 検索窓を開き、あらゆるサイトから情報を集める。
掲示板、ブログ、個人ニュースサイト。
調べてみると、水面下では二三ヵ月前からそれなりの話題性があったらしい。

('A`)「どうも、マジっぽいな……」

 多くを語らぬ不気味な殺人者予告はなかなかの盛り上がりようで、
姿も見えない実行犯は『閻魔』と呼ばれ、
既にある種のカルト的とも言える人気が涌いていた。

('A`)「これを利用すれば、奴に制裁を……」

 呟き、ドクオは更に情報を集め始めた。
その口元は醜く歪み、耳には既にしぃの声は届いていない。
ただ激しくタイピングしながら、『制裁』と何度もうわ言のように呟いていた。





175 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:51:30.08 ID:ZgCYV95x0
七章



 ( ∵)「ここか?」
(-_-)「ええ。ここの七〇一号室だったみたいですね」
 ( ∵)「じゃあそこの草むららへんか?」
(-_-)「いえ、もう少し奥の駐車場です」
 ( ∵)「あ〜……そりゃ悲惨だな」
(-_-)「ええ。それじゃあ聞き込み行きますか」
 ( ∵)「ああ」

 二人は今あるマンションの前に来ていた。
このマンションの七〇一号室に住んでいた人物の名前は、しぃ。
ブーンとツンの共通の友人である。
しかし今日は彼女に事情を聞きに行くわけではなかった。

177 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:52:42.90 ID:ZgCYV95x0
 エントランスにて管理人の許可を貰い七階へ上がった二人は、
話を聞こうと並ぶ部屋のチャイムを押すのだが、どこもかしこも返答が無い。

 そうして最後に七〇二号室まで辿り着いたとき、
ようやく中から玄関に向かってくる足音が聞こえてきた。

程なくして開かれたドアから、四十代後半と思われる女性が、
チェーンロックをしたまま顔をのぞかせた。

J( 'ー`)し「……どちらさまでしょう?」
 (-_-)「私、美府警察署のヒッキーと申します」

 言って、慣れた手つきで警察手帳を開く。
ビコーズも無言のままそれに倣い適当に写真を見せた。
それを見た女性は、しばし逡巡(しゅんじゅん)した後チェーンロックを外し、
改めて問いかけた。

181 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:54:07.17 ID:ZgCYV95x0
J( 'ー`)し「……なんでしょう」
 (-_-)「お忙しいところ申し訳ありませんが、
     七〇一号室に住んでいたしぃと言う女性について、二三伺いたい事があって来ました」
J( 'ー`)し「それならもう前にお話しましたけど……」

 その表情はウンザリだと言わんばかりに嫌悪に塗れていたが、
彼らにとっては見慣れたもので、それくらいで引いたりはしなかった。

 (-_-)「申し訳ありません。普段の彼女の様子ですとか、何か印象に残っていることはありませんか?」
J( 'ー`)し「私は見ての通りのオバサンですから、若い子との交流なんてあまり無いんですよ」
 (-_-)「少しも、ですか?」
J( 'ー`)し「ええ、少しも。もうよろしいですか?」
 (-_-)「いえ。当日の様子についてですが……」
J( 'ー`)し「それでは、失礼します。ご苦労様でした」

 ヒッキーの静止もまるで聞こえなかったようにドアは閉められた。

(-_-)「……ふう」
 ( ∵)「下手糞め。まあ、最初から期待しちゃいないけどよ。……しかし難儀だなぁ、おい」
(-_-)「周辺の住人も色々と疑われたでしょうからね」
 ( ∵)「結局実際のとこ動機は何だったのか……か。お前、これ事件に関係あると思う?」
(-_-)「その判断は事実を見てから下すべきですね」
 ( ∵)「チッ、つまんねー答えだな」

 舌打ちするビコーズがエレベーターのボタンを殴り、
扉が開いたのを見ると、ヒッキーと共に乗り込んだ。

183 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:55:48.30 ID:ZgCYV95x0
 ツン殺害よりも一ヶ月ほど前、ここである事件が起こった。
七〇一号室の住人、しぃが飛び降り自殺を図ったのだ。

大地に引かれるまま彼女は冷たいアスファルトに叩き付けられ、結果即死だった。
そしてその日、七〇一号室でしぃと共に酒を飲んでいたのが、ブーンだったのだ。

 自殺方法が飛び降りと言うこともあり、当初殺人の嫌疑を掛けられたブーンであったが、
逮捕には至らなかった。

 とは言え、彼が事情聴取された時の発言の数々は不明瞭極まりなかった。
目の前で飛び降りたはずであるのに、『何が起こったのか分からない』、
自殺の動機に対しても『心当たりがない』の一点張りだった。

 結局はしぃの体内から検出された多量の薬物反応と、向精神薬を常用していたと言う証言、
また、争った形跡も無く、ベランダの手すりに足跡が付いている点などから、
自殺という結論を以って捜査は打ち切られた。

186 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:57:12.13 ID:ZgCYV95x0
 ( ∵)「よーし、次は管理人でもちょちょくりに行くか」
(-_-)「よく言いますよ。全部僕にやらせといて。て言うか『ちょちょくり』って何ですか」
 ( ∵)「あ? ちょちょくりってのはお前……こう、ちょちょくることだよ」
(-_-)「説明になってません。……あ、もしかして『おちょくる』ってことですか」
 ( ∵)「ん? ……あー、そんな言い方もあるな」
(-_-)「いや、それしかないですよ」

 そんな馬鹿な話をしていると、二人の乗ったエレベーターが一階へと辿り着いた。
開いた扉の向こうにスーツを着崩した格好の一人の男が立っていたが、
ヒッキーは気にすることなくその脇を通り抜けようとした。
すると男は視線を彼らに向けるや否や目を見開き、意外そうな声を上げた。

(´・_ゝ・`)「あれ、なんでビコーズがここに居るんだよ」
  ( ∵)「おーおー、デミタス。お前こそ一人で何してんだ」

 ヒッキーを押しのけエレベーターから出るなり、
ビコーズは拳を作りデミタスの胸の辺りを小突いた。
それを横目にヒッキーは溜息を付くと、一人管理人の部屋を目指しその場を去った。

187 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:58:27.16 ID:ZgCYV95x0
(´・_ゝ・`)「俺はもちろん事件の捜査さ」
  ( ∵)「ああ、なんだっけ。なんか変な連続殺人だったよな。
      まったく、お前も好き者と言うか、上の指示に従ってちゃんと動けよ」
(´・_ゝ・`)「従ったてたさ。だけど都会は苦手でさ、今は迷子中だよ」
  ( ∵)「あーそうかいそうかい。お巡りさんが今から一緒に交番に連れてってやろうか? ん?」
(´・_ゝ・`)「お前に頼むくらいなら、犬にでも頼むよ」
  ( ∵)「確かに俺もお前も犬ではねえなぁ」
(´・_ゝ・`)「あはは、確かに確かに」

大声で笑った後、通りかかった住人の視線を感じたのか、二人はマンションの外に出た。

190 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:59:55.69 ID:ZgCYV95x0
(´・_ゝ・`)「俺は新興宗教の儀式的なものじゃないかと睨んでるんだ」
  ( ∵)「どんな事件なんだ? 全然犯人像みたいなのも流れてこねーんだけど」
(´・_ゝ・`)「そりゃあ、何もないんだもの」
  ( ∵)「何もない?」
(´・_ゝ・`)「ここ一ヶ月に三件立て続けに起こって、証拠ゼロ。
      ……いや、違うな。遺留品が繋げる人物像は無し、だ」
  ( ∵)「……おい、どこが連続殺人事件なんだよ」
(´・_ゝ・`)「ただ、一つ共通点と言えなくもないものがある」
  ( ∵)「あん?」
(´・_ゝ・`)「被害者が全員嘘吐きだったってとこかな」
  ( ∵)「はぁ? ちょちょくってんなよ? 嘘くらい俺だって吐くっつうの」
(´・_ゝ・`)「じゃなきゃ、同じ性癖を持った犯罪者が各地に同時発生」
  ( ∵)「おいおい、全然意味わかんねーよ。
      俺はお前と違ってめんどくさいこと考えんの嫌いなんだっつーの」

デミタスはその言葉を聞くと、ビコーズの顔を見つめて、徐に舌を出した

193 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:01:16.21 ID:NWof9Dr30
(´・_ゝ・`)「べぇ」
  (#∵)「……てめぇ、調子のんのもいい加減にしねえとそのベロ引っこ抜くぞ!」
(´・_ゝ・`)「それだよ」
  (#∵)「はぁ?」
(´・_ゝ・`)「被害者は全員、舌を切り取られているんだ」
  ( ∵)「……舌を?」

 その時ビコーズの脳裏を過ぎったのは、あの日のブーンとの出来事だった。
突如鮮明に蘇った血なまぐさい光景を消し去ろうと、ビコーズは舌打ちをして頭を掻き毟った。

  ( ∵)「あーくそ! あのよ、被害者の舌……だよな?」
(´・_ゝ・`)「ん? そうだけど。それ以外誰が居るんだ」
  ( ∵)「……いや、そうだよな。悪ぃ、気にすんな」
(´・_ゝ・`)「あ、そう。じゃあ俺は行くよ」
  ( ∵)「お? 流石に、はぐれ一匹にビビってきたか?」
(´・_ゝ・`)「まさか、腹が減ったんだよ」

 ひらひらと手を振りながら背を向け歩き出したデミタスを鼻で笑い、
ビコーズはポケットからタバコを取り出すと、火を点けて最初の一口を思い切り吹かした。

196 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:03:09.63 ID:NWof9Dr30
 霧散していく紫煙越しに流れ行く雲合いを眺めながら、
何気なく口の中で舌を転がしていると、憮然たる表情のヒッキーが戻ってきた。

(-_-)「ビコさん。管理人の話、聴いてきました」
 ( ∵)「あー、ご苦労さん。で、どうよ」
(-_-)「駄目でした。忙しいから帰ってくれと三十回は言われ続けました」
 ( ∵)「なんだ情けねえな。百回言われるまで帰ってくんな」
(-_-)「無茶苦茶言わないでくださいよ」
 ( ∵)「なんだよ、結局は収穫無しか」
(-_-)「大体これ、ビコさんの独断で来てるんでしょ?」
 ( ∵)「当たり前だろ。各々が頭使って事件を解決に導く。素晴らしいことじゃねえか」

ビコーズは銜え煙草のままそう言うと、顎の当たりを手で擦って目を細めた。

(-_-)「だから出世出来ないんですね。勉強になります」
 ( ∵)「勝手に言ってろ。期待されないってのは実に楽でいいぞ。
     評価は貰えなくとも金は貰えるしな」
(-_-)「ほら、帰りますよ。排ガス出して突っ立ってるだけじゃ車にも劣りますよ」

199 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:04:52.32 ID:O1eAIe2e0
 ( ∵)「なあ、ヒッキー」
(-_-)「なんですか?」
 ( ∵)「俺、禁煙するかな」
(-_-)「……そうですね、いいんじゃないですか? 時代の流れからしても妥当ですよ。
    て言うか、ビコさん何気に気にしてたんですね」
 ( ∵)「……っせーよ。何が時代の流れだ、アホンダラ。俺より長く生きてから言え」
(-_-)「それ、しばらく無理そうですね。
     それに、僕は正義感の塊だから、例えば何かに巻き込まれて殉職とか、
     きっとそんなんでビコさんより先に逝きますよ」
 ( ∵)「……縁起でもねぇこと言うんじゃねえ」
(-_-)「……すいません」

 ビコーズは煙草を吐き捨て靴の底で火をにじり消した。
そして「行くぞ」とぶっきらぼうに言うと、そのまま歩き出した。

ヒッキーは首の後ろに手を当て溜息を吐き、ビコーズの煙草を拾い携帯灰皿に仕舞うと、
駆け足でその後姿を追った。





203 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:06:33.84 ID:NWof9Dr30
8章



 暗い室内で男が一人、佇んだままただ一点を見つめていた。

(;´_ゝ`)「……」

 彼の視線の先にあるものは、控えめながら可愛らしい装飾の施された携帯電話。
何を隠そう、実の娘の携帯である。

(;´_ゝ`)「ツンめ……なんと言うタイミングで携帯を家に置き忘れて行くんだ……」

 眼前にパンドラの箱を捕らえながら、男は苦悩した。
それを開けることで訪れる災厄は、想像するだに恐ろしい。
しかし、心の奥底で何者かが彼に開けてしまえと囁きかけるのだ。

205 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:07:36.95 ID:NWof9Dr30
(;´_ゝ`)「いかん、いかんぞ。いくら休日で俺が家に一人だからといって、
      他人様の、あ、いや、娘の携帯を覗き見るなどと言う行為は……」

 男は聡明であった。
その行動に伴うリスクおよび自己の倫理観の欠落した行動を認識しており、
誰に見られずとも、己の目に監視されている恥を知っていた。

 しかし、知は時として混乱を招く。

( ´_ゝ`)「そう言えば、パンドラの箱は開けたものの急いで閉めたから希望が残ったとか……
      ん、待てよ? 絶望だったか? いや、違うな。確か希望が残ったおかげで、
      人類は希望を捨てずに生きられるようになったとか。きっとそうだ。おお!」

 この箱には希望が残っている。
危惧している事実など全く存在せず、それどころか喜ばしい知らせの一つでもあるのでは。
男はありもしない現実を作り上げ、携帯に手を伸ばした。

210 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:08:41.24 ID:O1eAIe2e0
 と、その時。
すぐ傍で、ガタンと、なにかが椅子にぶつかる音がした。

――見られてしまった。
男は瞬間慄然(りつぜん)とし、背中を丸め早口で自己を弁護し始めた。

(;´_ゝ`)「うお! ス、スマン! ほんの出来心だったんだ! 本当だ! 神に誓う!
      自分でもダメだとは思ったんだが、ついツンが心配で……って俺の足かよ」

単に自分の足が椅子に引っかかっただけだと知ると、男は大きく溜息を吐いた。

(;´_ゝ`)「心臓破れた……」

 訂正。男は愚鈍であった。
すっかり見えない何かに怯えてしまった男は、携帯に手を伸ばす気など毛頭無くなっていた。

213 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:10:03.75 ID:O1eAIe2e0
( ´_ゝ`)「心配にはなるが……まあ、既に俺が口出しをする年齢じゃないのかもな」

 年齢と口に出して、ふと娘が小さい頃に三人で囲んだ夕食の席を男は思い出した。
まだ器用とは言えない箸使いながら、一生懸命に食べ物を口に運び、
一々微笑む幼い娘の姿は、それだけで仕事を早く終わらせてきた甲斐を感じさせた。

( ´_ゝ`)「ツンは、よく笑う子だったよな」

 食べ物を食べる度に笑い、そしてそれを見る彼と目が合うと、また笑うのだ。
妻はよく「美味しそうに食べるから嬉しい」と言っていた。彼もそう思っていた。

 しかし、いつしか食卓からはポツリポツリと会話が失せ、
それに呼応するように多感な娘の笑顔は消えていった。
時が経つままに冷え切っていった食卓は、そのまま凝固し、割れた。

214 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:11:10.54 ID:O1eAIe2e0
( ´_ゝ`)「……」

 思い返す度に後悔の念が涌き、
今では自尊心を護ろうと心の中で唱える言い訳も、随分と陳腐なものとなった。
誰が悪いと言うことは当事者には決め難いことだが、幼子に罪が無いことは明白であった。

( ´_ゝ`)「本当ならお前に付いていった方が、ツンだって幸せだったのかもな」

 娘がここまで真直ぐ育ってくれたことに男は本当に感謝していた。
男親に娘ではどうしても気配りが行き届かないところがあるのだ。

恐らくは色々と我慢したこともあったはずだし、
本来してやるべきことでも、出来ずにいたことがあったはずだ。

( ´_ゝ`)「……もし、今も――」

 呟きかけたところで、唐突に軽快な歌が何処かから流れてきた。
見るとさっきまで手を伸ばしかけていた携帯のランプが、七色に光っていた。

219 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:12:31.62 ID:O1eAIe2e0
(;´_ゝ`)「うお! お、お……えーと、ん? あ、おお!」

 光り輝く携帯を前に、男はうろたえながら一体どうしたら良いものかと焦った。
もしかしたら忘れたことに気が付いて電話を掛けてきているのかもしれないと思い、
いや、しかしそれは携帯を手に取るための都合の良い言い訳なのではないかとも思い、
少しの葛藤をした後、結局は携帯を手に取り、開いてしまった。

ディスプレイに表示されていた文字は『内藤ホライゾン』。

( ´_ゝ`)「内藤ホライゾン? ……知らん名前だな」

 娘の交友関係はなんとなく把握しているつもりであったが、
やはり大学ともなると、そうもいかないようだと男は少しばかり気を落とした。
そして若干の背徳感を覚えながら、通話ボタンを押した。

222 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:14:06.84 ID:O1eAIe2e0
( ´_ゝ`)「ん、もしもし」
      『もしもし? ツンかお?』
(;´_ゝ`)「ん? あ、その、あ、しまった……う、あ……」

 男はその瞬間になって、ディスプレイの表示など気にせずに、
娘が出るものだとばかり思っていたことに気が付いた。
予想外の男の声にすっかり何を言って良いのか分からなくなった結果、

(;´_ゝ`)「ま、間違えました!」

 そう叫んで終話した。
一体何を間違えたのか。それを知るものは居ない。

(;´_ゝ`)「……」

 そして男は放心状態で携帯の待ち受け画面を眺めていた。
考えるべきことは沢山有るのだが、精神に掛かった負荷がそれを消化するために、
思考に裂く分の処理能力さえも奪っていた。

223 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:15:13.85 ID:O1eAIe2e0
 そんな折に訪れた一つの影。
不幸といえば不幸ではあるが、
すべてが自業自得であり、男には誰をも恨む権利は無かった。

ξ゚听)ξ「ただい……え?」
( ´_ゝ`)「……あ」

 真昼の居間で、娘の携帯をジッと見つめる父親。
想像するだに身の毛のよだつ光景である。
無論、どちらの立場にしても、だ。

ξ;゚听)ξ「……何、してんの?」
( ´_ゝ`)「……」
ξ;゚听)ξ「……」
( ´_ゝ`)「……」
ξ;゚听)ξ「……」
( ´_ゝ`)「……」

 暫しの沈黙。
そののち男は手に持っていた携帯を畳むと、
それをテーブルの上に置き、居住まいを正した。

そして、勢いよく右腕を振り上げると声高に叫んだ。

224 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 00:15:43.33 ID:XzG0gBsNO
これは酷い

226 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:16:46.40 ID:O1eAIe2e0
(;´_ゝ`)「ハンターチャンス! さて、お父さんは何をしていたでしょーか!」
ξ;゚听)ξ「……え? ハンター……何?」
(;´_ゝ`)「……」

空気を換えると言う男の計画は、ジェネレーションギャップの前に脆くも頓挫(とんざ)した。

ξ;゚听)ξ「あのさ、それ、私の携帯だよね?」
( ´_ゝ`)「ごめんなさい」

 為す術無しと知ると、男は床に音を立てて額を打ち付け土下座した。
加えて涙まで滲ませていた。

決して惨めだからじゃない、額が痛かっただけだと心の中で言い訳しながら、
男は娘から見えぬようにフローリングに涙を落とした。

228 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:17:46.39 ID:O1eAIe2e0
ξ;゚听)ξ「い、いや、別にそこまで謝らなくても良いけどさ……」
( ;_ゝ;)「え!?」

 恥も外聞もなく泣き顔を上げた男の目に映っていたのは、女神だった。
何故こんなにも寛大な心を持っているのか。

そしてその持ち主が自分の娘であると言う事実。
多種の感動が男の中を渦巻き、涙となってあふれ出した。鼻からも少し。

ξ;゚听)ξ「あーあー……ほら、ティッシュ」
( ;_ゝ;)「……ツン」

 なんと神々しいことか。
男はそのあまりの清らかさに、自らの汚れた心までもが浄化されていくかのような、
そんな感覚を今まさに体験していた。

230 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:18:53.40 ID:O1eAIe2e0
 この子を育てていたとは、なんとも痴(おこ)がましい思い違いをしていたものだ。
私はこの子に育てられていたのだ。

そう考えると男は、また涙を溢れさせた。
今度はほとんど鼻から。

( ;_ゝ;)「ツン……お父さん、立派なお父さんになるよ」
ξ;゚听)ξ「はぁ……そうですか」

 止め処なく溢れる鼻水をティッシュでかむ男を見ながら、娘は困惑の表情を浮かべていた。
そして掴んだティッシュが五枚目に差し掛かったところで、男がふと質問を投げかける。

( ´_ゝ`)「ところで、ツン。内藤って誰だ?」
ξ゚听)ξ「え? 大学の友達だけど?」
( ´_ゝ`)「そうか」

 予想通りの回答だったため、男はまた、はなをかむ作業に戻った。
一体どんな男なんだろうとか、そう言えば名前で呼んでいたなあとか、
そんなことを考えながら、男はヒリヒリする小鼻の辺りを手でさすった。

231 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:20:01.21 ID:O1eAIe2e0
ξ゚听)ξ「お父さん」
( ´_ゝ`)「なんだ?」
ξ゚听)ξ「中、見たの?」
( ´_ゝ`)「……え?」
ξ゚听)ξ「携帯」
( ´_ゝ`)「え? え? だって、そりゃあ……」
ξ゚听)ξ「……」
(;´_ゝ`)「あ、あれ? さっきそれを許してくれたんじゃ……」

 その言葉が示すものは、ただの質問、疑問である。
しかし男が今まさに体感している空気。
そこには決して言語を媒介できない不穏な雰囲気が混ざりつつあった。

234 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:21:19.64 ID:O1eAIe2e0
(;´_ゝ`)「待て。世の中には誤解から生まれる冤罪が沢山ある。
      こと個人間においては、対話不足から様々な軋轢(あつれき)が生まれることがあるだろう。
      だがな、ツン。我々はそう言った前例を知ることで……いや待て、
      そもそも俺は中身なんか見てないんだ。そう、そこがポイントなんだ。
      さっきはつい動揺して誤解を招く表現をしたが、それだけは事実だ。まずは話を聞いてくれ」
ξ゚听)ξ「言い訳が長い男は?」
(;´_ゝ`)「あ、う……嘘吐き。いや! だがな、ツン! この世に絶対の法則など――」
ξ)ξ「……もういい」
(;´_ゝ`)「なっ!」

 その言葉は男の胸に深々と突き刺さり、体中を駆け巡り、
あらゆる場所を凍りつかせながら、頭の中で木霊(こだま)し続けた。

(;´_ゝ`)「ツ、ツン。そんなことを言わないでくれ。せめて、怒ってくれ。頼む……」

 自らに背を向けたままの娘に男は懇願した。
怒りはまだ良いものだ。関心があると言うことなのだから。
関心を持ってくれてさえいれば、後の関係修復も可能と言うものである。

235 :VIPがお送りします。:2008/01/20(日) 00:21:46.29 ID:0b2SgBsN0
流石だな兄者

237 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:22:16.43 ID:O1eAIe2e0
 しかしそれに比べ「もういい」と言う言葉のなんと恐ろしいことか。
無関心。全くの無関心である。
口をパクパクとさせながら、
男は娘の背に投げかけるべき言葉を必死に搾り出そうとしていた。

ξ ー )ξ「……フフ」
 (;´_ゝ`)「?」

と、その時、その背中から笑い声が漏れた。

ξ*゚听)ξ「あはははは! ごめんごめん、冗談」
 (;´_ゝ`)「……?」

 ケラケラと笑いながら振り向いた娘の顔は紅潮していたが、
起こっている様子は微塵も感じられなかった。
二転三転する状況を全く把握できず、男は未だ口をパクパクとさせていた。

239 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:23:26.62 ID:O1eAIe2e0
ξ゚听)ξ「私ロックかけてるから、どうやっても見れないんだよね、これ」
( ´_ゝ`)「え?」

――――――

――――

――


ξ;゚听)ξ「もう、ごめんってばー」
(#´_ゝ`)「……」
ξ;゚听)ξ「機嫌直して。ね?」
(#´_ゝ`)「別に怒ってなんかない」
ξ;゚听)ξ「もー、絶対怒ってるし」
(#´_ゝ`)「怒ってない」
ξ;゚听)ξ「ごーめーんー」
(#´_ゝ`)「……」

 心を傷付けられた男は、腕を組んだまましばらく娘の謝罪の言葉に耳を傾けていた。
そして、ふとあることを思いついた。

242 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:24:30.44 ID:O1eAIe2e0
( ´_ゝ`)「……写真」
ξ゚听)ξ「はい?」
( ´_ゝ`)「ツンの写真が欲しい」
ξ;゚听)ξ「……」
( ´_ゝ`)「……」
ξ;゚听)ξ「えーと……私の写真で……ナニをするの?」
( ´_ゝ`)「ここまで信用無いのは、本気でお父さんショックですよ」
ξ;゚听)ξ「え、いや、だって……」
( ´_ゝ`)「……」
ξ゚听)ξ「……」
( ;_ゝ;)「父親だもん! 娘の写真欲しいもん! 自慢とかしたいもん!
      わざとデスクでツンの写真見て、同僚から『かわいい娘さんですね』とか言われたいもん!」
ξ;゚听)ξ「……」
( ´_ゝ`)「と、言うわけで……」

自らの携帯を取り出すと、男は陽気に笑った。

243 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:25:58.05 ID:O1eAIe2e0
( ´_ゝ`)「はい、チー……」
ξ;゚听)ξ「待った!」
( ´_ゝ`)「何かね」
ξ;゚听)ξ「そんな急に写真とか……ちょっと待ってて、この間買った服が――」
( ´_ゝ`)「待てません。後五秒。服を取りに行くと、間に合わずにシャッターが下りて、
      もれなく写真のタイトルが『娘の尻』になります」
ξ;゚听)ξ「この変態!」

( ´_ゝ`)「まったく……何を気にしているが分からんが、その格好も可愛いじゃないか」
ξ゚听)ξ「え、そうかな? で、でも……」
( ´_ゝ`)「隙あり!」
ξ;゚听)ξ「あ、ちょっと!」

246 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:26:56.10 ID:O1eAIe2e0
ウィーン……キュイーン……。

ξ;゚听)ξ「オートフォーカス遅っ! どっちが隙だらけよ!」

カシャッ。

( ´_ゝ`)「油断したな小娘が。シャッターは下りた。最早貴様の負けだ」
ξ゚听)ξ「……もう。別に良いけど、あんまり他の人に見せないでよ。恥ずかしいから」
(*´_ゝ`)「わ〜い、みんなに一括送信だ〜」
ξ゚听)ξ「聞けよ」

実に仲の良い親子だった。









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13章  14章  15章  十六章
その5
17章  終章  あとがき
posted by キティ at 20:58 | このエントリーを含むはてなブックマーク | Comment(1) | TrackBack(0) | 〆(・ω・ ) ヨミモノ
(「・ω・)「 お世話になってるヨソ様ー
海の幸 (VIP)
山の幸 (etc)


この記事へのコメント
  1. 兄者とツン親子可愛いな。
    Posted by 名乗るのマンドクセ('A`) at 2008年01月22日 14:12
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