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その2
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その4
13章 14章 15章 十六章
その5
17章 終章 あとがき
1 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:22:40.55 ID:ZgCYV95x0
序章
取調室に無言の男が三人。
内、険しい顔の男が二人。
( ∵)「……」
(-_-)「……」
そして、何をするでもなくただ笑う男が一人。
( ^ω^)「……」
笑顔のまま沈黙。
被疑者ブーンは、依然黙秘を続けていた。
3 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:24:25.12 ID:ZgCYV95x0
( ∵)「なあ、この際何でもいい。とにかく何か喋ってくれないか」
( ^ω^)「……」
( ∵)「……ふう」
(-_-)「ビコさん。こんなんじゃ調書作れないですよ」
( ∵)「うるせえな、お前は喋んなくていいんだよ」
(-_-)「はいはい」
容疑は殺人。
被害者はツンと言う女性で、ブーンの親しい友人だったらしい。
警察はその情報を得ると、すぐにブーンの携帯へ連絡。
連絡を受けたブーンはその後、外套の下に血まみれの服を着たまま、
自ら凶器とともに出頭してきた為、その場で緊急逮捕された。
だが、ブーンは何も喋ることは無かった。
携帯へ連絡した時はどうだったか。連絡を取った警官はこう言っている。
「何を言っても、くぐもった笑い声が返ってきた。何故彼がここに来たのか分からない」
意味のある言葉は、何一つ発していなかったと言うのだ。
5 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:25:59.99 ID:ZgCYV95x0
( ∵)「いや、黙秘権っちゅーのは大事だよな。人権は保護されてしかるべきだ。
しかしお前さん、ちょっと無口すぎるなあ。友達と世間話の一つもしないんじゃないか?」
( ^ω^)「……」
( ∵)「彼女ともそんな感じだったのか?」
( ^ω^)「……」
ブーンは笑っていた。
聴いていないのか。もしくは全て理解した上で笑っているのか。
だとしたら正気の沙汰ではないと、ビコーズは苛立たしげに右手のボールペンを回す。
( ∵)「頼む、何でもいい。俺は事実が確認したいだけなんだ。首を振るくらいならいいだろ?」
( ^ω^)「……」
(-_-)「……」
( ∵)「……」
諦めの沈黙ではなく、待ちの沈黙。
ブーンが何かアクションを起こさないか。ただその一点に集中し待つ。
9 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:27:25.07 ID:ZgCYV95x0
そんな彼らのひたむきな態度が届いたのか、
ブーンはゆっくりとその頭を垂れ、そして再び顔を上げた。
( ∵)「お、おおお? それは、YESってことか? OKってことか?」
( ^ω^)「……」
( ∵)「よ、よし、先ずは、えーと、な、何から訊こうか?」
(-_-)「ビコさんしっかりして下さいよ」
( ∵)「あー、くそ」
カンカンカン、とビコーズは机をボールペンで叩いた。
10 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:28:42.62 ID:ZgCYV95x0
( ∵)「あー……殺されたこの女性、ツンはお前の友人だな?」
( ^ω^)「……」
コクリ、と頷く。
( ∵)「そうか。それで、何でお前さんはここに来た?
何かしたかったことがあるんじゃないか?」
( ^ω^)「……」
コクコク。二回頷いた。
( ∵)「喋らないなら俺が選択肢を出そう。お前は、自首しに来たんだろ?」
( ^ω^)「……」
コクリ、と首肯。
( ∵)「よし。ツンを刺したのはお前なんだな?」
( ^ω^)「……」
ふるふる、と首を横に振った。
11 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:30:08.72 ID:ZgCYV95x0
( ∵)「……あん? 今更違うなんてことはねーだろ。
ツンを殺したのはお前なんだな?」
( ^ω^)「……」
しばしの沈黙の後、静かに首肯。
( ∵)「自宅から持ってきたバタフライナイフで胸を一突き。
その後死体を放置して、逃走ってとこか」
( ^ω^)「……」
しかし、ブーンは首を横に振った。
( ∵)「逃げてないとでも言いたいのか?」
( ^ω^)「……」
否定。
( ∵)「じゃあなんだ、まさか自分は刺してないとでも言いたいのか?」
( ^ω^)「……」
首肯。
( ∵)「はあ? じゃあ彼女を殺したのはお前じゃねえってのか?」
( ^ω^)「……」
否定。
12 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:32:30.34 ID:ZgCYV95x0
( ∵)「……チッ、イライラするなぁお前! ふざけるのもいい加減にしてくれ。
さっきから殺しただの殺してないだの、お前何しに来たんだよ!」
(-_-)「ビコさん」
( ∵)「んだよ! ああもう、なんか喋れよお前!」
( ^ω^)「……」
ブーンは猫背のまま、静かにビコーズの右手にあったボールペンを指差した。
( ∵)「ん? ……これか?」
( ^ω^)「……」
思惑が合致したのか、ブーンはゆっくりと頷いた。
( ∵)「そうか! よし、ヒッキー。紙よこせ」
(-_-)「急に言われても無いですよ」
( ∵)「僕はヒッキーだから筆記ーだけですってか?」
(-_-)「つまんないです」
( ∵)「っるせぇな、上司のギャグには笑えよ。紙紙っと……
ああ、この前のパチンコ屋のレシートがあったか」
もしや被疑者が笑うかもしれないと思ってした遣り取りだったが、笑い声は漏れなかった。
それに、ブーンはもとより笑顔であった。
14 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:34:18.92 ID:ZgCYV95x0
内心落胆しながらも、ビコーズはポケットからクシャクシャの小さな紙切れを出し、
ボールペンと共にブーンの前に差し出した。
( ∵)「ほら、これで良いか?」
( ^ω^)「……」
やや間を置いて浅く頷いた後、ブーンはボールペンを手に取った。
そしてレシートを左手で押さえると、
ゆっくりと一画一画を確認するように文字をしたため始めた。
一文字一文字が連なり、やがて一文となり、
ブーンは最後に句点を打つとボールペンを置いて、再び顔を上げた。
17 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:35:51.22 ID:ZgCYV95x0
( ∵)「……ヒッキー」
(-_-)「はい?」
( ∵)「頭痛薬あるか?」
(-_-)「いいから早くそれ読んでください」
( ∵)「はあ……こんなやつしばらくいねぇぞ、おい」
溜息混じりにレシートを手に取り、ビコーズはゆっくりとそれを読み上げた。
( ∵)「『僕は嘘吐きです』……これだけだ」
(-_-)「……」
( ^ω^)「……」
(#∵)「おめぇ喋んねえのにいつ嘘吐いたってんだよ!」
(-_-)「ビコさん」
(#∵)「さっきからふざけんのも大概にしろよ! お前が殺したんだろ!?」
(-_-)「落ち着いてください!」
憤怒し今にも掴みかかりそうなビコーズに、ヒッキーが静止の声を上げた。
すると、それと同時にブーンは突如音を立てて立ち上がり、ゆっくりと天井を見上げた。
18 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:37:50.66 ID:ZgCYV95x0
( ∵)「お? おぉ……どうした」
(-_-)「……」
誰から見てもブーンは異様だった。
挙動すべてにおいて一々人間性の欠落を感じるのだ。
その内心が図れず、却ってその顔に張り付いた笑みが不気味なのだ。
( ^ω^)「……」
立ち上がったブーンは再び視線をビコーズに戻した。
そして人差し指で自らの顔を指すと、親指を立て、一文字に自らの首を切る仕草をした。
( ∵)「……」
( ^ω^)「……」
笑顔。それもとびきりの笑顔だ。
今にも走り出して歓声を上げたがっているような、そんな笑顔だ。
だのに、とてつもなく薄ら寒い。
20 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:39:32.16 ID:ZgCYV95x0
( ∵)「……お前が彼女を、ツンを殺したのか?」
( ^ω^)「……」
そして、首肯。
(-_-)「……ビコさん」
( ∵)「なんとも気持ちわりぃが……もう証拠は十分あったし、決まりだな」
ビコーズが眉間にシワを寄せ、溜息を吐く。
( ∵)「まあお前さんも色々混乱してたってことだな。
じゃあ調書作るからよ、もいっぺん最初から……」
そう言ってビコーズは渡したボールペンを戻そうと手を伸ばした。
その時、何の前触れも無くブーンが自らの顔をビコーズの顔面に、ぬっと近づけた。
23 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:40:42.74 ID:ZgCYV95x0
( ^ω^)「……」
(;∵)「うぉっ!」
思わず引き下がろうとするビコーズの両肩を、ブーンはその手で掴み、見つめる。
(;∵)「なんだよ! 放せ! くそっ!」
(-_-)「おい! 変なことは考えるなよ!」
( ^ω^)「……」
自棄になったのか。そう思われ一瞬にして緊迫した取調室。
しかし次の瞬間、それ以上に背筋が凍りつく光景をビコーズは目の当たりにした。
24 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:42:10.61 ID:ZgCYV95x0
( ^ω^)「……んばぁ」
ぬちゃあ、と粘つく音を立てて開かれたブーンの口。
そこに見えるはずの歯が黒い。いや、赤黒い。
だが重大なことはそんなことではなかった。
多量の血餅に塗れた口腔。そこにあるべき舌。
その舌が、本来の半分ほどの短さで、びく、びく、と蠢(うごめ)いていたのだ。
(;∵)「う、うわあああああああああ!」
(-_-)「ビコさん!」
手を振り払い、床に尻餅を付いたビコーズにヒッキーが駆け寄った。
その様子を見ながら、口を開けたままのブーン。
( ^ω^)「……」
口を開いたその表情は、笑顔。
子供が心から嬉しいと思ったときのような、まるで周りを気にしない笑顔だった。
26 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:43:48.88 ID:ZgCYV95x0
そしてブーンはそのまま表情を崩すことなく、口の中の肉を指でなぞり
デスクに人差し指で文字を書き始めた。
その後程なくして、部屋の外から数人の男が駆けつけ、
ブーンはそのまま取調室から連行された。
(-_-)「大丈夫ですか?」
( ∵)「……ありゃトラウマもんだぜ畜生。俺のボールペン血塗れになっちまった」
(-_-)「ビコさん、これ……」
( ∵)「ん? ……お前、これ……」
デスクにはかすれた血文字でこう記されていた。
『だから僕は舌を切りました』
27 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:45:12.99 ID:ZgCYV95x0
*
( ∵)「……んで、奴はどーなった」
(-_-)「即病院送りです。近くの大学病院でいま検査を受けています」
( ∵)「あいつあんなんで一晩居たってのかよ……正気じゃねえ」
(;><)「大変なんです!」
勢い良く扉を開け、新米の警官が飛び込んできた。
それに驚くでもなく、ただ苦々しい顔をして二人は次の言葉を待った。
30 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:46:43.43 ID:ZgCYV95x0
(;><)「ひ、被害者が消えたんです!」
( ∵)「新米、言葉は正しく使えよー。被害者は死んだ方、あいつは被疑者……消えただぁ!?」
(;><)「い、いや、だから……」
(#∵)「おい、一体何をどうしたら被疑者に逃げられるんだよ!」
(;><)「違うんです。被害者なんです!」
(#∵)「ああ!?」
(;><)「被害者の遺体が消えたんです!」
( ∵)「お前、何言って……大体もう遺体は遺族に引き渡されてるはずだろ」
(;><)「その遺族からの連絡らしいんです! 消えて居なくなったって!」
(-_-)「……生きながら解剖を受けてたって言うんなら、相当我慢強いですね」
( ∵)「……マジで?」
(;><)「本当なんです!」
( ∵)「おいおい、なんだってんだよこの事件はよぉ! 我慢大会なのかぁ?
……今日のナイター見れっかな」
(-_-)「無理でしょうね」
( ∵)「チッ……別に返事なんかいらねーよ……」
続
32 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:48:35.00 ID:ZgCYV95x0
1章
国立美府大学、大講堂。
国立とはいえども、緊張感の無い講義がダラダラと開かれていた。
そして後列では講義中にもかかわらず、おしゃべりに余念のない生徒達が溢れている。
(*゚ー゚)「あ、ツン、これだよ。このサイト」
ξ゚听)ξ「あーはいはい。相性診断とかもういいわよ」
携帯を広げたまま話をする彼女らもまた、その内の一つである。
(*゚ー゚)「でもさ、やっぱり気になるじゃん。ね?」
ξ゚听)ξ「そんなもんデタラメよ。ねえ、ブーン」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「ブーン?」
( ^ω^)「……Zzz...」
ξ;゚听)ξ「……ちょっと、コイツ目開けたまま寝てるんだけど」
(*;゚ー゚)「……なんか、平和だね」
34 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:50:50.29 ID:ZgCYV95x0
( ^ω^)「……!」
ξ゚听)ξ「あ、起きた」
( ^ω^)「出席は!?」
ξ゚听)ξ「まだ」
( ´ω`)「起きて損したお……」
(*゚ー゚)「内藤君、単位大丈夫なの?」
( ^ω^)「またツンにノート見せてもらうからいいお」
ξ゚听)ξ「アンタはまたそうやって……今回はもう見せないわよ」
(;^ω^)「え、ちょ! それは駄目だお。そんな事されたら僕留年決定だお!」
ξ゚听)ξ「駄目。前回ノート貸して酷い目にあったからもう貸さない」
(;^ω^)「あ、あれはその、CDとかのレンタルでも、つい返却期間を過ぎちゃったりとか、
そんな感じのノリで、その……そんな感じのノリだお」
ξ゚听)ξ「はいはい、残念ね〜。社会では信用が第一なのよ」
(;^ω^)「マジかお……」
36 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:52:04.79 ID:ZgCYV95x0
(*゚ー゚)「あ、あのさ、内藤君」
( ^ω^)「?」
(*゚ー゚)「その……ノートとってないの?」
( ^ω^)「ゴミを出さないというエコロジー的発想から、ノート自体ないお」
ξ゚听)ξ「アンタ自体すでにゴミクズね」
( ^ω^)「なんだと」
(*゚ー゚)「えっとさ……えっと、私のノート見る?」
( ^ω^)「! ホントかお!?」
ξ゚听)ξ「しぃ、こいつに餌やったら死ぬまで追い掛け回されるわよ」
(*゚ー゚)「だって、とってないものはもうどうしようもないし……」
( ^ω^)「じゃあテスト前になったら……」
講師「と言うわけで、来週ここまでの範囲で小テストを行います」
(*゚ー゚)「……」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「本日よろしいでしょうか?」
(*゚ー゚)「ふふっ。いいよ」
40 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:53:46.00 ID:ZgCYV95x0
そうして笑いあうと、
彼らは配られた出席カードに手早く必要事項を記入して、ツンに渡した。
( ^ω^)「ツン、僕の人生預けたお」
(*゚ー゚)「ごめんね、渡しておいて」
ξ゚听)ξ「あー、はいはい」
足早に二人は大講堂から出て行った。
その姿を見送るとツンは両腕を机の上に置き、そのまま顔を伏せた。
ξ゚听)ξ「はぁ……疲れた。ガンバりなさいよー、しぃ」
うわ言のように呟くと、ツンは自らの腕の中で再び溜息を吐いた。
41 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:56:40.46 ID:ZgCYV95x0
二人は唯一コピー機のある購買前に辿り着くと、
まだ誰も居ないことを確認して喜びあった。
( ^ω^)「早く出てきてよかったお」
(*゚ー゚)「ホントだね。はい、ノート」
( ^ω^)「ありがたく頂戴いたしまする」
ノートを受け取るとブーンは小銭を適当に投入し、ノートをコピー機にセットした。
するとその後ろ姿に、しぃがおずおずと話しかけた。
(*゚ー゚)「あ、あのさ、内藤君」
( ^ω^)「なんだお?」
名を呼ばれながらも振り向かずに設定画面と格闘するブーン。
やがてコピーが始まり、やかましい機械の駆動音が鳴る。
42 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:57:52.92 ID:ZgCYV95x0
(*゚ー゚)「内藤君って……その、今好きな人とかさ、居るの? なんて……」
( ^ω^)「ん〜……火曜と木曜に居る食堂のオバちゃんが、ご飯多めに持ってくれるから好きだお」
(*゚ー゚)「……あ、そうなんだ。内藤君いっぱい食べるもんね」
( ^ω^)「逆に金曜のオバちゃんは少なめだから、金曜は麺類にするんだお」
(*゚ー゚)「へえ〜。私はいつも小さいの頼むからわかんないなあ」
バタバタと蓋を開けてはノートのページを変えて、コピーを進めるブーン。
次第に彼らの後ろには列が出来始め、しぃはそれを見ると口を開かなくなった。
46 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:58:56.71 ID:ZgCYV95x0
( ^ω^)「ふう……とりあえず全部コピー完了、ありがとうだお」
(*゚ー゚)「どういたしまして」
( ^ω^)「お礼になんかオゴるお」
(*゚ー゚)「え、いいよ。別に私が勝手に言い出したことだし」
( ^ω^)「何言ってるんだお。
ちょうど駅前の店のおっきいパフェを食べたいと思ってたところなんだお。
一人じゃ入りづらいし、来てくれお」
(*゚ー゚)「え、ホントに? あ、いや、その、別に嫌とかじゃなくてね、その、はい、行きます!」
( ^ω^)「オゴりくらいでしぃは慌てすぎだお」
(*゚ー゚)「あはは、ホントだね、うん」
そうして二人は街へと足を運んでいった。
それはまだ日差しの緩やかな陽春のこと。
甘い、甘い、桜の香りが彼らの頬をくすぐっていた。
続
47 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:00:14.73 ID:ZgCYV95x0
2章
ξ゚听)ξ「ただいまぁ」
住み慣れたアパートの鍵をいつものように開け、ツンは独り言のようにそう言った。
アパートには父親と共に住んでいる。
母親は幼い頃、愛想を尽かして出て行ってしまったようだ。
ツン自身にその記憶はないのだが、
これまで父親から聞かされた話からするに、死別したと言うわけでは無さそうだった。
(´<_` )「あぁ、ツンお帰り」
ξ゚听)ξ「あ、叔父さん来てたんだ」
居間から現れた予期せぬ人物にツンは、にわかに目を見開いた。
53 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:01:37.56 ID:ZgCYV95x0
(´<_` )「兄者が、仕事が遅くなりそうだから一緒に飯を食ってやってくれ、と」
彼、弟者は彼女の呼んだとおり、ツンの父の弟、即ちツンの叔父である。
最近になって仕事場がツンの自宅近くになったらしく、よくこの家に来ていた。
ξ゚听)ξ「ん? じゃあ、なんで鍵掛けてたの? ……何かいやらしーことしてたんでしょ」
(´<_` )「ん? 男が家に鍵を掛けるといやらしいことをするのか?
叔父さんそれは知らなかったなあ。後学のためにも、ぜひ教えて欲しいなあ」
ξ゚听)ξ「叔父さん、それセクハラだし」
(´<_` )「お前が言い出したんだろうがい」
ξ>∀<)ξ「イヤー!」
両手でツンの頭を掴み、持ち上げるようにしてギュウギュウと締め付ける弟者。
それに対しツンは嫌な顔をすることは無く、むしろ甲高い声を上げて子供のようにはしゃいだ。
ξ゚听)ξ「はい、それじゃあお触り代二万六千円頂きまーす」
(´<_` )「カード使えますか?」
ξ゚听)ξ「ウチの店で使えるカードはドナーカードのみになりますが、いかが致しましょう?」
(´<_` )「……今日の夕飯当番を代わるので勘弁してください」
ξ゚听)ξ「よし。許してやろう」
玄関で始まった寸劇も一応のオチが付き、二人は奥の部屋へと向かった。
59 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:02:53.43 ID:ZgCYV95x0
*
夕食もすっかり食べ終わり、テレビでも一日を振り返るニュース番組が始まろうかという頃、
ようやくツンの父親が仕事から帰ってきた。
( ´_ゝ`)「ただいま」
(´<_` )「おかえり、兄者。いつも遅くまで精が出るな」
( ´_ゝ`)「いや、弟者もいつもスマンな。ツンの相手ばかりさせて」
ξ゚听)ξ「おかえりー」
( ´_ゝ`)「おお、ツン。いつも遅くなってスマンな」
ξ゚听)ξ「お父さん謝ってばっかじゃん。いいから早く上がりなよ」
( ´_ゝ`)「うむ」
くたびれたスーツの上着をツンに渡すと、同じくくたびれた革靴を脱ぎ、
兄者はネクタイを緩めながら携帯の画面を確認した。
63 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:04:06.51 ID:ZgCYV95x0
( ´_ゝ`)「む……むむむ」
携帯の画面を凝視して唸りながら器用にベルトを外し、ズボンを脱いだ。
( ´_ゝ`)「うむ……」
そしてズボンをハンガーに掛けると、ワイシャツを脱いでツンに渡し、
画面を見たまま直立不動となった。
ξ゚听)ξ「……どうしたの?」
( ´_ゝ`)「いや、なんでもない」
(´<_` )「兄者、とりあえず服を着て来い。今にも甥が俺の前に姿を現しそうだ」
ξ゚听)ξ「これが……私の本当のパパ……」
( ´_ゝ`)「甥? まあ、分かった。着てこよう」
携帯を閉じて自らの部屋へと向かう兄者。
その後姿を見ながら、弟者は誰にも聞こえないようにそっと呟いた。
64 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:05:16.09 ID:ZgCYV95x0
(´<_` )「何故あの父親からこんなシモ大好きな脳内万年ピンク娘が……」
ξ゚听)ξ「間違いなく叔父さんのせいだし。て言うか人を勝手に淫乱売女みたいに言わないでよ」
(´<_` )「知識が有ったとしても、そういう言葉遣いはどうかと思うぞ、俺は」
ξ゚听)ξ「保護者面しないでよ」
(´<_` )「じゃあお前明日からバイトしろ。自活しろ自活」
反撃を食らったのが癇に障ったのか、ツンがわざとらしく大きな声を張り上げた。
ξ><)ξ「ヒドイ! 叔父さんが、ご飯作る代わりに体触らせろって言ったんじゃない!」
(´<_`;)「わ、お前、バカ!」
ξ><)ξ「わたし、イヤだって言ったのに! 痛かったのに!」
(´<_`;)「止めろ! ストップ! ストップ!」
弟者の静止の声の後、奇妙な静寂が辺りを包んだ。
そして、スッと襖の開く音がして、弟者は思わず眉を寄せ、苦々しい表情になった。
そんな弟者の後ろから甚平に着替えた兄者が、そっと弟者の肩に手を乗せ、
耳元でゆっくりと囁いた。
68 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:06:26.10 ID:ZgCYV95x0
( ´_ゝ`)「……時に、弟者。今夜の晩酌、付き合ってもらおうか」
(´<_`;)「ま、待て兄者! いいか、なんとも陳腐な台詞ではあるが、話せば分かる。
そう、話せばわかることが多いからこそ、この台詞自体が陳腐なものとなっているのだ。
とにかく、俺が何もしていないと言うことは、すぐに誰もが承知できる事実なんだ」
( ´_ゝ`)「弟者、俺はいつもツンにこう教えているんだ」
(´<_`;)「……なんだ」
( ´_ゝ`)「言い訳の長い男は――」
ξ゚听)ξ「嘘吐きだ」
舌をべーっと出したツンが楽しそうに笑っていた。
(´<_`;)「……把握……した」
しおれる弟者を見て、ツンはふふんと笑い、
手に持っていたワイシャツを持って洗面所へと向かった。
72 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:07:40.05 ID:ZgCYV95x0
ツンは洗濯カゴの前で立ち止まり、手に持っていたワイシャツを両手で抱えると、
ゆっくりとその中に顔を埋めた。
ξ--)ξ「……」
いつになっても変わらない父親の匂いを鼻腔に、温もりを頬にそれぞれ感じると、
ツンは顔を離してそれをカゴの中へ入れた。
ξ゚听)ξ「……ふん、女のにおいゼロね。あの人大丈夫なのかしら」
独り言ちて、ツンは再び居間へと戻った。
しかし、そう言いながらもツンはどこか満ち足りた気分でもあった。
73 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:08:42.21 ID:ZgCYV95x0
居間では既に出来上がった兄者が、弟者にくだを巻いている最中だった。
( ´_ゝ`)「弟者。その昔、お百姓さんはだな……」
(´<_`;)「兄者、気持ちよく酔ってるところ悪いが、
お百姓さんは今そんなに関係があるとは……」
(#´_ゝ`)「いいから黙って聴け! いいか! その昔お百姓さんはだな……」
(´<_`;)(は、話が進まない……)
その様子を見てツンは再びクスリと笑うと、自分の部屋へと戻っていった。
( ;_ゝ;)「それでだ、そんな中お百姓さんは、
雨の日も、風の日も、田んぼの様子を見てはだな……」
(´<_`;)「あ、兄者。時に最近のツンは様子が変だと思わないか?」
(#´_ゝ`)「何を言うか! 人の娘に手を出しおってからに!」
(´<_`;)「訛(なま)るな。俺の予想だと、ツンには彼氏が居るな」
( ´_ゝ`)「……何?」
75 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:09:45.64 ID:ZgCYV95x0
(´<_` )「ああ、間違いない。そして最近何かうまくいってないんだろう。
俺はよくここに来るから分かるんだが、最近ツンは携帯を眺めたままボーっとしたり、
あるいは溜息を吐くことが多くなった。本当だ」
( ´_ゝ`)「……また、そんな弟者、驚かせようとしたって……」
(´<_` )「ツンもそろそろ年頃だ。兄者もそれなりの覚悟をしておいた方がいいかも知れんぞ」
(;´_ゝ`)「か、覚悟とは……」
(´<_` )「最近の娘だ。ある日突然、『出来ちゃった』とか言われても不思議ではないぞ」
(;´_ゝ`)「出来ちゃったってなんだ! ホットケーキでも作ったのか! ふざけるな!」
(´<_` )「落ち着け兄者。それが最近では普通なんだ」
(;´_ゝ`)「……」
(´<_` )「……」
78 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:10:52.27 ID:ZgCYV95x0
(;´_ゝ`)「……弟者」
(´<_` )「どうした?」
(;´_ゝ`)「今この瞬間、少しだけだが、携帯を覗き見る者の気持ちが分かった」
(´<_` )「そうか。なに、心配ならツンに直接訊けばいい」
(;´_ゝ`)「いや、しかし……」
(´<_` )「ほら、兄者こんな時間だ。今日はもうこれくらいにしないと、
明日もし倒れたとして、心配を掛けるのはそのツンになんだぞ。
一人娘なんだ。少しは気を遣わせないようにしようじゃないか」
(;´_ゝ`)「う……そ、そうだな」
すっかり意気消沈した兄者は、ふらふらと立ち上がるとそのまま弟者に背を向け、
「おやすみ」とだらしなく言って、寝室へと入っていった。
一人残された弟者は一通りの食器を片付けると、電気を消して呟いた。
(´<_` )「……次からはこの手で行くか」
続
79 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:12:21.10 ID:ZgCYV95x0
三章
(´<_` )「遠いところ、わざわざご苦労様です」
( ∵)「いえ……そちらも、その、大変でしたね」
( ´_ゝ`)「……」
(-_-)(ビコさん、ちゃんとしてください)
( ∵)(うっせ、俺こういうの苦手なんだよ)
居間でテーブルを挟み、彼らは向かい合うように二人ずつ座っていた。
ドア側に兄者と弟者、その反対側に刑事二人。
(´<_` )「どうぞ」
(-_-)「あ、ご丁寧にありがとう御座います」
差し出された茶を見つめながら、
ビコーズは何度も「ふう」だの「はあ」だのと溜息を漏らしていた。
83 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:13:41.50 ID:ZgCYV95x0
(-_-)「ちょっと、ビコさんウルサイです」
( ∵)「ん? あ、スマン……」
溜息もそうだが、ビコーズは先ほどから何分か置きに、
忙(せわ)しなく右手をピクピクとさせていた。
胸ポケットの煙草に手が伸びそうになったところを我慢しているのだ。
この部屋には灰皿が無く、住人が非喫煙者であることが明確だったためである。
( ∵)「すいません、昨日飼ってる鳥が逃げ出しまして。つい、心配から」
(´<_` )「そうなんですか……」
ここに来たこと自体にイラついていると思われないよう、適当な話題で誤魔化した。
85 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:14:54.37 ID:ZgCYV95x0
(-_-)「それで本題に入りますが、消えて居なくなったと言うのはどういうことですか?」
(´<_` )「はい、通夜が終わった後に、一度自宅へ棺と共にツンを帰宅させたんです」
(-_-)「ええ」
(´<_` )「そしてそのまま交代で蝋燭の番をしていたんです」
(-_-)「と言うことは、どちらかが目撃をされたのですか?」
(´<_` )「それが……その……恥ずかしながら、私が途中で寝てしまいまして……」
( ∵)「まさか、その時に?」
(´<_` )「ええ。兄に起こされて、気付けばもぬけの殻でした」
(-_-)「お兄さんは何故お気づきになったのですか?」
( ´_ゝ`)「……」
(´<_` )「どうも何か物音がしたとかで目が覚めたそうです」
(-_-)「なるほど……戸締りは?」
(´<_` )「玄関の鍵は勿論掛けていました。窓も開けていませんでした」
(-_-)「そうですか……。お兄さんは何か思い当たること、ありませんか?」
( ´_ゝ`)「……」
(-_-)「あの……」
開かれているのかいないのか、
兄者はその細い目でヒッキーの顔を見つめると溜息を吐いた。
87 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:16:24.48 ID:ZgCYV95x0
( ´_ゝ`)「申し訳ありませんが、今日はこれでお引取りください」
(-_-)「え? ですが、まだ来たばかりでお話も……」
( ´_ゝ`)「これ以上居られると、そちらの方の煙草の臭いでツンの存在が消えてしまいそうだ」
そう言ってチラリと見たのはビコーズだった。
それに気付いたのか、ビコーズは気まずそうに目を伏せた。
(´<_` )「兄者。警察の方だって色々協力してくれようと……」
( ∵)「いや、いいです。こちらこそスイマセンでした。ほら、帰るぞ、ヒッキー」
(-_-)「……はい」
ビコーズは困った表情の弟者に一礼すると、そのまま上着を掴んで部屋を出て行った。
(-_-)「失礼しました」
(´<_` )「……いえ、こちらこそお力になれず、すみませんでした」
(-_-)「後は私たちに任せてください」
そしてヒッキーもそれに続くように部屋を辞した。
89 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:18:06.71 ID:ZgCYV95x0
(-_-)「ふう……」
( ∵)「お疲れさん」
(-_-)「僕、少し無神経でしたかね?」
( ∵)「いや、良くやったさ」
(-_-)「……らしくないですね。ビコさんが褒めるなんて」
( ∵)「ヒッキー、多分あの兄さんの方なんかあるな。
もしかしたら、弟も一枚噛んでるか……」
(-_-)「え? なんかって……」
( ∵)「なんだお前、気付いて無かったのか」
(-_-)「え?」
( ∵)「やっぱお前はまだまだだな」
(-_-)「ちょっとビコさん教えてくださいよ」
( ∵)「ダメダメ。ゆきっつぁんも言ってただろ?
生まれたときは皆平等。だから偉くなりたかったら勉強しろって」
(-_-)「でも、ビコさんは勉強……あ、そもそも偉くなかったですね」
( ∵)「……お前、最近生意気になったよな」
コツコツと靴音を立てて遠ざかっていく二人。
その気配を探っていた弟者は、足音が聞こえなくなると玄関から離れ居間へと戻った。
94 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:19:29.40 ID:ZgCYV95x0
(´<_` )「兄者、それじゃあ俺は仕事に行ってくるが……大丈夫か?」
( ´_ゝ`)「何がだ」
(´<_` )「いや、少し疲れているようだからな。
俺も早めに帰ってくるよう心がけるが、無理しないで休んでいるといい。
飯は冷蔵庫に一通り入れてあるからそれを食ってくれ」
( ´_ゝ`)「……ああ、スマン」
(´<_` )「なに、お互い様だ」
頬を緩ませると弟者は鞄を手に持ち、ゆっくりと部屋から出て行った。
そうして遠くにバタンという扉の閉まる音と、ガチャンという鍵の閉まる音を聞くと、
兄者は徐(おもむろ)に立ち上がった。
ふらふらと覚束(おぼつか)無い足取りで自らの部屋へと向かうと、
携帯を取り出して何処かへと電話を掛ける。
98 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:20:48.77 ID:ZgCYV95x0
( ´_ゝ`)「もしもし。ああ、俺だ。前に話していたことだが……ああ、そう、それだ。
……そうか、それは良かった。ん? いや、俺じゃないんだ。少し訳ありでな」
それだけ言うと終話し、兄者は回転椅子にどっかと腰掛け、ぼうっと天井を眺め始めた。
そして再び携帯の画面に視線を戻し、一枚の画像を呼び出した。
それは恥ずかしそうに頬を染めているツンの写真であった。
( ´_ゝ`)「嫌だと言いながらしっかり写真に納まるのは、なんともあいつらしいよな」
目を細めて微笑すると、兄者は画面が暗くなるまでそれを眺め続けた。
やがて画面が真っ暗になったころ、部屋にチャイムの音が響いた。
それを聞くと、兄者は俄に口をしっかりと閉じ、眦(まなじり)を決した。
( ´_ゝ`)「さて……行くか」
続
102 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:22:06.79 ID:ZgCYV95x0
4章
あのノートの一件から数ヶ月。
今ではブーンとしぃは二人きりで出かけるまでの仲になっていた。
( ^ω^)「それで、仕方ないからそれ捨てちゃったんだお」
(*゚ー゚)「えぇ〜勿体無い」
( ^ω^)「僕もそう思ったんだけど……」
(*゚ー゚)「あれ? ごめん、内藤君ちょっと待ってて」
( ^ω^)「ん? わかったお」
トトト、と軽やかに小走りでしぃが走っていくその姿を後ろから見ながら、
ブーンはしぃが靴を買い換えていたことに気が付いた。
戻ってきたら訊いてみようか、なんて考えながら視線を再び前に戻すと、
しぃは知り合いらしい小柄の男と会話をしていた。
106 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:23:09.46 ID:ZgCYV95x0
(*゚ー゚)「ドクオ? ドクオだよね?」
('A`)「ん? あぁ、そうだけど」
(*゚ー゚)「久しぶりだね〜。元気?」
('A`)「まあ、そうだな。元気っちゃあ元気だ」
(*゚ー゚)「今何してるの?」
('A`)「コンビニでバイト。別にやりたい事もないし」
(*゚ー゚)「へえ〜、そうなんだ」
思いのほか長く続く会話に、ブーンは手持ち無沙汰になってしまい、
携帯を開いたり閉じたりと、落ち着かない様子だった。
そんな様子に気付いたのか、ドクオはチラリと視線をブーンの方へ向けた
('A`)「あっちは?」
(*゚ー゚)「あ、大学の友達」
('A`)「……へえ、そう。じゃあ俺あっちだから、もう行くわ」
(*゚ー゚)「うん、またね」
そう言って歩き出したドクオは、しぃに背を向けブーンの方へと歩く。
挨拶でもした方がいいのかと悩んだブーンは、せめて会釈だけでもと心の準備をした。
109 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:24:26.52 ID:ZgCYV95x0
するとドクオはブーンの手前二メートル程で、しぃに背を向けたまま立ち止まった。
('A`)「……」
( ^ω^)「……」
しかしドクオは無言で、ブーンも何を話したらいいものかと口を開けずに居た。
と、その時ドクオがポケットから手を抜こうとして、鍵を落としてしまった。
('A`)「あ」
( ^ω^)「あ」
落ちた鍵を拾おうと、ブーンは一歩二歩と近づき、体を曲げた。
そしてワンテンポ遅れ、それに倣(なら)うようにして地面に手を伸ばすドクオ。
俄(にわか)に近づいたその距離で、ドクオが呟いた。
112 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:25:43.73 ID:ZgCYV95x0
('A`)「しぃから離れろ。クズが」
( ^ω^)「……え?」
鍵を拾い上げたドクオは、体を折り曲げたままのブーンを見ることなく歩いていき、
そして思い出したように振り向いて手を振った。
('A`)「またな。しぃ、ブーン」
ようやくブーンが姿勢を戻した頃、しぃがブーンの元へと駆け寄ってきた。
(*゚ー゚)「どうしたの? 早く行こうよ」
(;^ω^)「……し、しぃ」
(*゚ー゚)「ん?」
(;^ω^)「えと……あの人は?」
(*゚ー゚)「ドクオ。高校のとき、私とツンと同じ学校だったんだ」
(;^ω^)「僕の話をした事はあるのかお?」
(*゚ー゚)「ないかなあ。結構久しぶりに会ったんだもん」
(;^ω^)「……」
118 : ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:26:44.22 ID:ZgCYV95x0
先程の心に突き刺さるようなドクオの言葉に混乱しながら、
ブーンはそれをしぃに言うかどうかを迷っていた。
そしてその直後、順番待ちをしていたかのように遅れて耳の奥に届いた別れの言葉が、
更にブーンを戦慄させた。
ならば何故、彼は自分の名前を知っているのだろうか、と。
続
117 :VIPがお送りします。:2008/01/19(土) 23:26:44.08 ID:duhicEqB0
毒男黒いなあ。
その1 ←いまココ
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